干ばつに脅かされるタイ稲作 エル・ニーニョが追い討ちか

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.29

 日本は台風被害でコメの作況指数が98まで落ち込んだと報じられたばかりだが、タイでは厳しい干ばつがコメ生産を脅かしている。27日付のバンコク・ポスト紙によると(Water pumps, tankers being sent out as cropland dries up,Bngkok Post,10.27)、政府は干ばつに襲われた県、とくに北東部の県にポンプと水のタンカーを送った。灌漑局と県農業当局には全国規模の調査をし、緊急援助を必要としている地域のリストを作るように命じた。政府は、作物を助けるために、タンカーとポンプをフル動員するという。

 土地が乾き切り、稲が萎びてきたローイエッ県にはポンプが輸送途上にある。コーケーンでは、乾きつつある水田に水を供給するためにタンカーが送られた。ナコーン・ラーチャシーマ県では、ダム貯水量が乾季の家庭消費を賄えるだけのレベルになると、灌漑局が二作目の中止を強く要請している。6県で人口降雨が試みられたが、湿度が60%に達しないために不成功に終わっている。

 26日の閣議は、灌漑区域での86万4,000haの稲のニ作目と13万haの他の作物、灌漑区域外の34万haの稲と30万haの他の作物の作付を制限することを決めた。北部、北東部、中部平野の13県のおよそ5,000の農家は、米の代わりにトウモロコシを栽培するように勧告される。

 このような事態は、今年に限らない恐れがある。森林防火当局は、多くのアジア太平洋諸国に深刻な干ばつをもたらすエル・ニーニョ現象の発生の証拠をつかんだという。今月初め、米国気候予測センターは、エル・ニーニョの兆しである太平洋赤道周辺の海水温上昇を確認したと報告したが、タイにおける干ばつの厳しさを予想するために利用されるインドネシアの森林火災について、今年は火災シーズンも異例に長い。これは、エル・ニーニョのためにインドネシアの乾燥が激しくなるという米国の予想と合致する。

 同じく27日付のバンコク・ポスト紙によると(Forest fire dept on alert)、国立公園・野生動物・植物保護局は、来月にも始まり、98年以来の厳しさとなるかもしれない05年森林火災に備えるように、全国の森林官に命じたという。同局によると、エル・ニーニョが報告された98年、森林火災で焼失した森林の面積は、97年の66万ha、99年の30万haを大きく超える114万ha(全森林のほぼ1割)に達した。これらの火災のほとんどは、農民が収穫後の残滓を焼いたり、山菜採り前に森林を焼き払うことから起きる。森林火災に備えよとは、農民のこうした行為を最小限に抑えよということだが、完全に抑えることは不可能だ。それでは農民の生活が成り立たなくなる。

 しかし、森林の焼失は、めぐって水不足をさらに加速する一方、降雨の際の洪水の危険も増す。国立公園・野生動物・植物保護局の専門家は、水不足につながる森林の乾燥の元凶は、農産物輸出を推進する政府の政策の下での集約的農業と作物用地の拡大だと指弾してきた。北部の森林を訪ねてみれば、森林の中のクリークから取水し、農地に導く無数のパイプが見られる。農場、特に高地の野菜・果樹プランテーションが大量の水を地下水と自然のクリークから引っ張っている。ほとんどすべての保護林は、政府の農産物輸出の強調のために拡大した農地に取り囲まれていると言う(WATER CRISISBlame pinned on govt policy:Shortfall result of bid to boost farm exports,Bangkok Post,04.4.5)。これに干ばつが加われば、世界一の米輸出大国の稲作の将来は、ますます安泰を保証されない。

 ついでながら、タイ稲作の将来は、環境対策の不備による水・土壌汚染にも脅かされていることも指摘しておこう。以前、ターク県メー・ソート郡の村人が水田の高濃度カドミ汚染で健康と生活を脅かされていると伝えたが(タイ:ライムと有機肥料でカドミ汚染農地修復を計画 だが汚染源対策は?)、今月22日、遂に1,600haの汚染水田の収穫前の稲の破壊が決まった(Villagers agree to destroy plants,Bangkok Post,10.23)。タイの稲作には、輸出拡大を叫ぶ前に取り組むべき課題が山積している。日本の大手マスコミは、FTA早期締結のために農産物市場を開放せよと騒ぐばかりだが、それはタイ農業の持続可能性を一層失わせることになるかもしれない。

 関連情報
 
水不足がタイ農業を脅かす―水不足には構造的要因,04.3.30