再選ブッシュ、温暖化政策は不変 地球破滅へ日本も同罪?

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.5

 世界中の人々の耳目を集めた米国大統領選挙はブッシュ再選に終わった。米国民の過半が、事態をますます悪化させるだけのテロ撲滅政策に目を奪われ、既に自身に降りかかっている地球温暖化という大量殺戮兵器から目を逸らしたということだろう。少なくとも今後4年間、米国は、有無を言わせぬ軍事的・経済的影響力を、人類と地球の破滅に駆り立てるために行使することになろう。英国の”Independent”紙は今日、大統領環境顧問が、大統領は二期目に地球温暖化政策を変えることはないと語り、緊密な関係を探る英国・ブレア首相の希望は挫折に追い込まれたと伝えている(Blair environment aide panned by US adviser,04.11.5)。

 英独気候変動会議が開かれるドイツを訪れた英国・エリザベス女王は、野放図な気候変動がもたらすかもしれない破滅的影響の科学的証拠の蓄積に衝撃を受けてきたと言い、英国がEUとG8の議長国を努める間(05年)に、この問題を中心議題にするようにブレア首相に要請した(Green Queen Urges Action on Climate Change,dw-world.de,11.3)。この会合で、両国政府は共同研究の立ち上げに合意、ブレア首相は、G8の議長国として、「この問題への国際的対応の全体的規模の一段の変化を達成する機会を提供する」と述べた。また、英国政府主任科学顧問のデビッド・キング氏は、人間の活動により引き起こされた地球気候変動の疑う余地のない科学的証拠があり、暴風雨、洪水、熱波などの極端な天候が一層頻繁になり、今取られる温室効果ガス削減対策も、効果を発揮するまでに30年かかると警告した。彼は、気候変動戦略には、排出削減と、既に起きている気候変動の影響に諸国が適応するのを助ける行動の二面が必要だと述べた(UK and Germany pledge to tackle golobal warming,Financial Times,11.4)。

 ところがその矢先、先のインデペンデント紙の報道だ。大統領顧問であるワシントンの”競争的企業研究所”地球温暖化局長・イーベル氏は、環境への脅威はテロとの戦争よりも重要と警告したデビッド・キング氏を攻撃、BBCラジオで、警告ばかりして”馬鹿げた主張”を続ける彼ほど気候変動について無知な人間はいない、彼は気候変動の専門家ではない、と語ったという。

 イーベル氏は、米国の政策の変化の見通しは、上下両院で共和党が勢力を伸ばしたことで一層減るだろう、変化があるとは思わないと言い、さらに世界の気温が記録的に上昇してきたという主張は「まったくもって真実ではない」と語る。ストロー外相も、この問題をめぐるブッシュとブレア首相の「大きな不一致」を認めたという。ブレア首相は、ブッシュ再選が、中東和平プロセスの復活を含め、「様々な問題で前進の機会を与える」と語ってきたが、こんな希望は吹き飛びそうだ。ともあれ、気候変動をめぐる英国、そして国際社会の立場と、米国の立場の違いは、縮まるどころか広がる可能性が高い。

 先頃、北極の急速な温暖化の事実を示し、温室効果ガス排出の抑制の努力を要請する8ヵ国の共同研究の報告の公表が大統領選後に延期された問題について伝えた(北極温暖化研究発表延期に科学者が反乱 エリザベス女王もブッシュの政策に懸念の発言,04.11.2)。この研究は、北極の氷の厚さがこの30年で半分になった、氷の分布域が10%縮んだなどの事実を発見、現在の速度で変化が続けば、北極の夏季の氷は70年までに完全に消える、世紀末の海面は1mも上昇して沿岸地域で洪水を引き起こし、恐らくは北欧に温暖な気候をもたらすメキシコ湾流も停止するだろうとなどと予測する。大部分は人間活動がもたらす温暖化は北極では地球全体の2倍の早さで進行しており、その減速のためには温室効果ガス排出の緊急の削減が必要だと言う。

 ところが、ブッシュ政府は、この報告が温暖化抑制のための広範な政策を支持するのを数ヵ月にわたってやめさせようとしてきたらしい。今月初め、この研究をめぐる8ヵ国の協議がアイスランドで開かれたが、4日付のワシントン・ポスト紙によると(U.S. Wants No Warming Proposal,The Washington Post,11.4)、米国国務省代表は、この研究は詳細な政策提案を用意するだけの証拠を欠くと論じているという。

 交渉に詳しい何人かの匿名個人によると、米国の雇用が失われると二酸化炭素排出の強制削減に反対するブッシュ政府は、報告の科学的発見や排出強制削減の要請を支持する穏やかな言い回しにさえ、繰り返し抵抗してきた。政策に関する初期草案には、92年の気候変動枠組み条約の目標達成のために、「北極委員会は、メンバー国に対し、個別に、また適切な場合には共同で、関連部門全体での気候変動戦略を採択することを要請する。これらの戦略は温室効果ガス排出削減を目指すべきである」というパラグラフが含まれた。しかし、米国はその削除を要求、国務省高官は、「我々は政府の政策に縛られている。北極委員会で地球気候政策を作るつもりはない」と語ったという。

 ヨーロッパからの一参加者は、米国政府は問題への取り組みを回避するために、全プロセスを棚上げにしようとしており、最終協議で他の国が米国に圧力をかけるだろうが、「米国政府が立場をはっきりと変えないかぎり、いかなる解決策も見出せない」と言う。

 だが、残念ながら、これは他所事ではない。日本も似たようなものだ。環境庁は、漸く環境税最終案をまとめた(5日)。石油や石炭など化石燃料に含まれる炭素1トン当たり2400円を課税し、年間4900億円の税収を一般財源化して環境対策目的に使うという。当初のトン当たり3600円、1兆円を超える税収を環境対策補助金に当てて排出量9.5%削減を見込むという構想は、産業界の反対で大きく後退した。それさえ実現するかどうかは分からない(実現したとしても、税収が有効に使われるかどうか国民がしっかり監視しなければ、省庁間の無駄な予算分捕り合戦に結果するだけだろう)。

 排出権取引は、乾いたタオルは絞れないと排出量上限設定に反対し、排出権取得ばかりを目指す企業の声で、排出削減の本旨に背く自主参加制度が構想されている。経済産業省諮問機関の産業構造審議会も、京都議定書の削減目標達成のため、海外での省エネ事業を通じた排出権獲得など「京都メカニズム」を最大限活用する方針を決め、削減目標については、各業界の自主削減目標の遵守の仕組み導入の検討を業界に求めることとしただけだ(4日)。すべての消費電力をクリーン・エネルギーで賄おうなどというBT社のような発想は、どこからも出てこない(⇒英国BT社、すべての消費電力をクリーンエネルギーから,04.10.15)。ここでも、「政府が立場をはっきりと変えないかぎり、いかなる解決策も見出せない」。