温暖化抑制 更新可能なエネルギーを最優先 効果があれば原発もー英国世論調査

農業情報研究所(WAPIC)

06.1.18

  気候変動への対応の学際的研究と国・国際レベルの広範な対話を推進する英国のティンダール・センターが16日、気候変動との関連で原発の是非を問う英国民に対する世論調査結果を発表した。総じて言えば、英国民の多くは、もし気候変動緩和に役立つならば原発受け入れる用意があるが、これを積極的に支持する人は少数で、他の更新可能なエネルギー源に勝る支持はないという。

 http://www.tyndall.ac.uk/publications/EnergyFuturesFullReport.pdf

 英国政府は、エネルギー供給の安定確保と2050年までに二酸化炭素排出量を60%減らすという目標の達成には脱原発政策の見直しが不可欠という見方を強め てきた。昨年11月末、 ブレア首相は、彼が新世代原発の建設につながると期待するエネルギー政策の見直しの方針を明らかにした。貿易産業省は近々、エネルギー政策見直しにつながる原発のコスト・安全性・核廃棄物の処理等にかかわる調査を始め、夏までに結論を出すことになっている。首相は、一つを除くすべてが2023年までに解体されねばならない14の既存原発に代わる原発の建設の是非を見極めるこの調査の結果を予断するものではないと言う。

 しかし、彼が、気候変動との戦いには原発が不可欠と信じ、またロシアからの輸入天然ガスへの過剰な依存に警告を発する政府主任科学者・デヴィッド・キング卿の強い影響を受けていることは周知の事実である。以来、環境団体や多くの労働党議員は、原発促進は大量の公的資金投入を必要するが、これは風力・波力・太陽エネルギーなどの更新可能なエネルギーの促進に使われるべきものだと、首相への反発を強めてきた。このような状況の中で実施されたこの世論調査の結果が、このような論争にどう影響するかが注目される。

 この調査による主要な発見は次のとおりである。

 ・人々は、原発よりも気候変動を心配している。

 ・化石燃料よりも更新可能なエネルギーを支持する傾向が強く、原発への支持は最低である。しかし、電力供給を確保するための信頼できる将来のエネルギー源について問うとき、更新可能なエネルギーが最も支持されることに変わりはないが、原発への支持が石炭・石油を上回り、ガスと同等になる。それは、様々な電力源に対する人々の受け止め方の違いを反映している。多くの人は原発が危険な廃棄物を作り出し、人間の健康に有害を考えている。大部分の人は風力がクリーンで安全、経済にとっても好ましく、安価と受け止めている。石炭は温暖化を引き起こすと見られている。

 もしもエネルギー供給のコストが同じならば、圧倒的多数(77%)は原発よりも更新可能なエネルギーを選ぶ。この場合に原発を選ぶのは10%に達しない。

 ・原発に関する将来の4つの選択肢に関する問いへの回答:既存の原発の利用を続けるべきだが、その寿命が尽きた場合には新設のものを置き換えるという人と、その場合には新設しないという人が34%づつ 。原発の数を増やすという人は9%、既存の原発すべてを閉鎖すべきという人が15%。

 ・気候変動に関しては、91%の人が世界の気候が変わりつつあると考えている。62%は、気候変動に対して可能なあらゆる行動を取るべきとし、さらに32%が何らかの行動が取られるべきと考えている。可能な行動としては、大多数の人が行動の変化を通じての需要管理を挙げている。その他の最も共通な答えは、更新可能なエネルギー源の利用の増加とエネルギー効率的技術の 開発。しかし、大部分の人は、変化の責任は個人ではなく、世界・国レベルにあると考えている。

 39%の人は原発は気候変動を引き起こすを考えており、原発が気候変動への挑戦に寄与するという見方に懐疑的である[燃料製造過程での温室効果ガスの排出]。

 ・気候変動を緩和する原発促進以外の方策としては、更新可能なエネルギー(78%)、生活スタイルの変化とエネルギー効率(76%)の促進が強く支持されている。41%の人は、気候変動なかで暮らすよりも原発を受け入れるほうがましとし、54%の人は、もし気候変動への挑戦を助けるのならば原発新設も受け入れる用意があるとしている。信頼できる電力供給は、原発と更新可能なエネルギーを含む エネルギーミックスを通じて確保されると感じている人が多く(63%)、また61%の人は、更新可能なエネルギーが開発され、競合的に利用されるならば、現在の原発の継続を支持する意思がある。

 調査の結論は次のようなものだ。

 人々は、気候変動は非常な現実的脅威をもたらすという考えを前提に、少なくともエネルギー源の一定のミックスという現実的な選択肢を受け入れている。しかし、更新可能なエネルギーと原発への需要削減に対する明確な支持があり (もしこの選択肢が利用可能ならば)、個人・家庭レベルでの炭素管理に関する広範な論議が必要になる。また、相当数が原発に反対していることから、原発更新をめぐる争いが続く可能性が高いが、人々は単純なリスクのトレードオフというより一層複雑な全体的問題を見ているから、多様な立場を組み込んだ大規模な国民 的・政策論争が必要になる。

 論争の行方は予測の限りではない。しかし、焦点は原発がどれほど二酸化炭素排出量の削減に寄与するかということであろう。ガーディアン紙によると、ティンダール・センターのケヴィン・アンダーソン上級研究員は、原発が温室効果ガス排出削減目標を達成する唯一の方法というのは間違った考えと言う。彼によると、原発は英国で利用される 全エネルギーの3.6%を供給するに過ぎず、2020年までにガス・石炭発電所を原発に置き換えても、発電所以外(輸送など)他の排出源からの排出増加で二酸化炭素排出量は4%から8%増加する。これくらいの排出はエネルギー効率の向上で簡単に削減できる、エネルギー供給 のためにではなく、エネルギー需要削減のためにカネを使うべきだと言う。

 Nuclear power 'cannot tackle climate change',The Guardian,1.17
 http://www.guardian.co.uk/science/story/0,3605,1688034,00.html

 関連情報
 イギリス:原発なし、2050年までにCO排出60%削減、エネルギー白書,03.2.25
 
イギリス:エネルギー白書サマリー(部分訳),03.2.25