気候変動との戦い 新技術開発の代わりに熱帯林破壊防止がカギー雨林科学者団体

 農業情報研究所(WAPIC)

07.5.15

 英国・オックスフォードに本拠を置く熱帯雨林科学者団体・グローバル・キャノピー・プログラム(GCP)が5月14日、熱帯雨林破壊は自動車や工場を上回り、エネルギー部門に次ぐ第二の温室効果ガス排出源となった、温暖化を防ごうとするならばバイオ燃料、排出二酸化炭素(CO)ガスの分離と地中閉じ込め、次世代発電所など新技術への先進国の大量投資はおかど違い、その資金は熱帯雨林破壊の防止にこそ振り向けられねばならないとする報告書を発表した。

 Forests First in the Fight Against Climate Change,GCP,May 2007.
  http://www.globalcanopy.org/vivocarbon/ForestsFirst.pdf
 →http://www-personal.umich.edu/~thoumi/Research/Carbon/Forests/Forests,%20Carbon%20Strategies/Forests%20First%20in%20the%20Fight%20Against%20Climate%20Change.pdf

 GCPの推定によると、輸送・工業、航空輸送が温室効果ガス総排出量のそれぞれ14%、3%を排出するのに対し、森林の伐採と焼き払いは25%を排出する。ブラジル、インドネシア、コンゴなどでの森林破壊を止めることで、このように大量の排出の削減が最も迅速に、かつ最も安上がりに実現できる。そのために新たな技術は無用である。必要なのは、森林破壊を食い止める政治的意思と執行のシステム、そして切り倒し・焼き払うよりも生かしたほうが樹木の価値が高くなる(政府にとっても個人にとっても)ようにする経済的誘導措置(インセンティブ)だけである。先進国が排出削減技術に焦点を当てる一方、貧しい国に森林焼き払いを止めるインセンティブを提供しないのは本末転倒だと言う。

 従来、森林は基本的にはCO吸収源としか考えられてこなかった。しかし、今後4年だけの熱帯雨林破壊でも、2025年までに予想されるすべての飛行機のフライトが排出する以上のCOを大気中に排出する。

 食用油に加え、バイオ燃料原料としての需要も急増しているパーム・オイル増産のために森林破壊が加速するばかりのインドネシアは、つい最近、世界第三の温室効果ガス排出国となった。先進国や中国などの胃袋を満たすために拡大する大豆畑・牧畜がアマゾン雨林を侵略、バイオエタノール産業の急拡大に伴うサトウキビ栽培拡大が間接的にこれを加速しているブラジルの排出量もインドネシアとほとんど変わらないところまで増加している。EU、インド、ロシアなどの大工業国の排出量はこれに遥かに及ばない。このニ国を上回るのは米国と中国だけだ*

 最新データによると、森林破壊で毎年大気中に入るCOは20億トンにのぼる。この破壊面積は5000万エーカー(2000万f)、イングランド・ウェールズ・スコットランドを合せた面積に相当する。そして、残る森林は1兆トンの炭素を含み、これは既に大気中にある量の2倍に相当する。従って、報告は、「もし我々が森林を失えば、気候変動との戦いに敗北する」と結論する。

 しかし、森林破壊はどうしたら食い止めることができるのか。森林破壊の食い止めを難しくしているのは、それがアグリビジネス産品に対する旺盛な国際需要に駆り立てられたものであるからだ。森林保護はコマーシャリズムには合わない。しかし、彼らの30年に及ぶ戦いも”遥かなる戦場”(トニー・リチャードソン監督)の戦い (つまり無益な突撃)に似たようなものになりそうだ。十分なフィランソロピーもなければ、善意の資金提供者も足りない。かくなるうえは、コマーシャリズムを敵と見るのではなく、味方につけねばならない。

 GCPは、森林破壊を食い止めるための金銭的インセンティブを提供できる市場メカニズムー森林が人類に対して提供する生態系サービスを取引する新たな市場メカニズムの即刻の創出を提唱する。それは政府の承認するフレームワークの下で、売り手と買い手の連携を通して迅速に働くことができる。市場は毎年、森林をパーム・オイル、牛肉、大豆のための土地に転換する力と十分に対抗できる額の資金を配布できる。その利益は、これらの森林が育つ土地を所有する人々、彼らに依存し、あるいは金を稼ぎ・家族を養うために木を切り続けるしかない貧しい人々が共有せねばならない。

 その効果に比べれば、排出権取引の対象となる新たな植林がもたらすCO吸収の効果など微々たるものだろう。地中閉じ込めなど将来の技術も、森林破壊を放置するならば実際には意味をなさない。森林破壊を加速するバイオ燃料に至ってはマイナス効果のほうが遥かに大きそうだ。国連気候変動政府間パネルも取り上げることのなかった森林破壊による温室効果ガス排出 を考慮すると、既存の温暖化抑止策はなんとも間の抜けたものに見えてくる。 だからと言って、米国、日本を始めとする先国国や中国、インドのような大排出国の排出削減努力の手抜きが許されるわけでは決してないが。

  *化石燃料燃焼による温室効果ガス排出量(CO換算)に関する比較可能な国連最新データ(2000年)では、ブラジルの排出量は世界第7位、インドネシアの排出量は世界第14位である。米国と中国が断トツの1位、]2位を占め、次いでロシア、インド、日本、ドイツ、ブラジル、カナダ、英国、イタリア、韓国、フランス、メキシコ、インドネシア、オーストラリア・・・と続く。
 

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