温暖化で南太洋の炭素吸収能力が減少 温暖化が温暖化を呼ぶ過程、既に始まった?

  農業情報研究所(WAPIC)

07.5.20

 大気から二酸化炭素を取り去る南大洋(南緯45度以南の海洋)の能力が気候変動によって蝕まれつつあることを示す新たな研究が発表された。

  Le Quéré C., et al.,Saturation of the Southern Ocean CO2 Sink Due to Recent Climate Change,Science,Published Online May 17, 2007:Abstract

 研究者は、海洋により吸収され、放出される二酸化炭素の量を測定するために、南極大陸と南大洋の島々の11の沿岸観測所からデータを取った。そして、この南太洋炭素吸収源の炭素吸収能力の変化を計算するために、これを世界の大気中二酸化炭素のレベルの測定値と比較した。

 海洋の二酸化炭素吸収量に関する確かな数字はないが、世界の海洋は年々大気中に入る二酸化炭素(現在、炭素換算で約80億トン)の一定割合ー実測に基づく研究は最大で50%ほどにもなることを示しているーを吸収する。従って、大気中に入る二酸化炭素が増えれば、それに比例して増えることになる。

 ところが、1981年から2004年までの24年間についてのこの新たな研究では、大気中への二酸化炭素排出量は40%も増えているのに、南大洋が吸収する二酸化炭素の量には変化がなかった。南大洋の年々の炭素吸収能力は、大気中二酸化炭素の大きな増加から予想されるトレンドと比較して、10年ごとに8000万トンの割合で減っているという。

 研究者によると、その原因は、オゾン層破壊や地球温暖化により、南太洋上を吹く風が強烈さを増していることにある。南極上空のオゾン層の減少で上層大気が冷えて下降気流が強まる一方、温暖化による気圧差の拡大で風力が強大化する。それによる海の攪拌で、炭素を閉じ込めた冷たい低層の水が海面まで上昇、大気中に放出されるガスが増える。

 南太洋が1年ごとに吸収する二酸化炭素の量(炭素換算)は、平均して1億トンから6億トンの間で、最大でも世界の海洋が吸収する量の15%ほどにすぎない。短期的にみればこの吸収能力減少の影響はさほどでもないかもしれない。しかし、長期にわたるその累積効果は大きい。この吸収能力減少は、世紀をまたぐ長期的タイムスケールでみると、大気中二酸化炭素濃度の高位安定につながるだろうという。

 この吸収能力減退は、南太洋だけでなく、程度の違いはあれ、世界中の海洋でも起きている可能性がある。とすれば、問題はもっと深刻だ。研究者は、この研究は、温暖化が温暖化を呼ぶ悪循環ー大気中の二酸化炭素の増加が温暖化を引き起こし、この温暖化が次には海洋から一層多くの二酸化炭素 を放出させることになる過程ーが、過去80万年の気候と大気の研究から予想されるよりも、少なくても20年早く、既に始まっていることを示唆すると言う。

 このような過程が既に始まっていると想定すると、2030年までに二酸化炭素排出を減少に転じさせ、2050年には排出量を2000年比で5%増から30%減の間に抑えることで気候変動を許容限度内に収めることは可能とした先の気候変動政府間パネル(IPCC)報告の結論は通用しないことになる。

 海洋だけでなく、他の重要な炭素吸収源である陸上植物の炭素吸収能力も気候変動により減少するであろうことを示す研究も、つい最近現れたばかりだ(最近の大気中CO2濃度急上昇は高温による植物の炭素吸収減少のためー英国の研究,07.5.14)。その上、森林も、炭素吸収源であるどころか、自動車や工業に勝る二酸化炭素排出源となっていることも明らかになった (気候変動との戦い 新技術開発の代わりに熱帯林破壊防止がカギー雨林科学者団体,07.5.15)。

 気候変動を許容限度内に収めることなど、もはや幻想にすぎないかもしれない(その原因が大気中の温室効果ガス濃度の上昇にあると前提するかぎり)。少なくとも、温室効果ガス削減努力の格段の強化がないかぎり、それが不可能なことだけは明らかだ。

 関連ニュース
 Polar ocean is sucking up less carbon dioxide,news@nature,5.17
 Southern Ocean already losing ability to absorb CO2,NewScientist.com,5.17
 
CO2:南大洋は吸収ゼロ 温暖化対策急務に 8カ国調査 毎日新聞 2007年5月18日 3時00分