世界の土地の24%、日本の土地の35%が劣化 FAO報告

農業情報研究所(WAPIC)

08.7.3

  国連食糧農業機関(FAO)が7月1日、世界の多くの地域で土地劣化が激しさと広がりを増しているとする”グローバル土地劣化・改善アセスメント”を発表した。これは1981年から2003年までの間に収集されたデータを使った研究である。

 研究によると、生態系の機能や生産性の低下と定義される土地の劣化は、耕作地の20%、森林の30%、草地の10%で進行中である。劣化する土地に直接依存している人口は世界人口の4分の1、15億人にのぼると推定される。土地劣化の影響には、生産性の低下、移住、食料不安、基本的資源と生態系の損傷、生物生息地の変化を通しての種や遺伝的レベルでの生物多様性の喪失が含まれる。 

 Global assessment of land degradation and improvement
 http://lprlada.fao.org/lada/index.php?option=com_docman&task=doc_download&gid=58&Itemid=157

 2日に発表されたFAOニュース・リリースによると、パービス・クーハフカンFAO土地・水資源部長は、「土地の劣化は、バイオマスと土壌有機物の喪失が大気中に炭素を放出するから気候変動にも重大な影響を及ぼし、また土壌の性質やその保水力、養分貯留能力にも影響を与える」と警告する。

 Land degradation on the rise,FAO,08.7.2
 http://www.fao.org/newsroom/en/news/2008/1000874/index.html

 この研究は、食料と水に関する政策と対策、経済開発、環境と資源の保全を支えるために必要な最新の数量的情報を提供することを目的とする。グローバル土地劣化・改善アセスメント(GLADA)は、劣化が進む地域と劣化が停止したか、改善に向かった土地を確認するためにリモートセンシングを使い、フィールド調査で現地の状況を確認した。

 土地劣化は、土壌の風食・水食、養分欠乏、塩化、化学物質汚染、物理的構造の退化などの様々な形態を取るが、この研究では生態系の機能と生産性の長期的低下と定義され、これは、リモートセンシングによる正規化植生指数(NDVI)で代用される純一次生産性(NPP、同化作用による大気中二酸化炭素の吸収量と呼吸作用による放出量の差)によって測定された。土地劣化は、気候で調整されたNPPの低下のトレンドで、改善はその増加トレンドで示される。

 1991年のアセスメントでは、土地面積の15%が劣化していることが示されている。今回のアセスメントで確認された劣化地の24%はこれと重ならない。つまり、過去23年間の土地劣化は、主に新たな地域での劣化である。以前から劣化が進んでいた地域ではこれ以上の劣化が進みようがなく、放棄されるか、低い生産性のままに管理されている。

 NDVIの空間的パターンと時間的トレンドと雨水利用効率の1981-2003年について分析で、地球の土地の24%で劣化のトレンドが見られた。主な劣化地域は、赤道から南のアフリカ、東南アジアと中国南部、中央北部オーストラリア、パンパ、そしてシベリアと北米の広大な北方林地帯だった。

 劣化地の20%ほどは作物用地(すべての耕作地の20%以上)で、24%は広葉樹林、19%が針葉樹林、20-25%は牧草地だった。

 16%の土地では、気候調整NPPの増加が見られた。改善が進む土地の18%(全作物用地の20%)が作物用地、23%が森林、43%が牧草地だった。ただし、この中には、通常は改善とは見なされない放牧地、農地への樹木や藪の進出も含まれている[日本の耕作放棄地の行き着く先である]。

 劣化地の78%は湿潤地域に、8%は乾燥準湿潤地域に、9%は半乾燥地域に、5%が乾燥及び高度乾燥地域に属する。劣化地と土壌または地勢の間に明確な関係はなく、劣化は主に管理―人為―によって引き起こされている。

 およそ15億人が直接劣化地に依存している。劣化地と農村人口密度の間の相関関係は弱いが、底流にある社会的・経済的劣化要因を引き出すためには、土地利用の歴史の一層詳細な分析が必要だ。

 森林と田んぼの国・日本は土地劣化と無縁と思う人もいるかもしれないから、特に日本に関するデータを紹介しておく。

 全土地面積に占める劣化地の比率は、世界全体では23.4%だが、日本で国土総面積の34.56%が劣化地である。これよりも劣化地の比率が高い国は37ヵ国ある。つまり、面積で見るかぎり、日本は世界38位(173ヵ国中)の土地劣化国である。土地劣化度をより正確に見る1981−2003年のNPP損失量は426万8668トンで、これは世界30位、決して威張れた数字ではない。

 その「底流」には何があるのか。社会的・経済的、そして政治的要因に基づく”土地利用”の歴史の詳細な分析が必要だ。これは、改善の方向に導くには何が必要かを知るためにも重要だ。世界的にも、日本でも、食料生産の最も基本的な基盤が失われつつあるというのに、マスコミ、洞爺湖サミットに集まる首脳を含む政治家たちはもちろん、科学者、研究者も、この問題はほとんど無視したままだ。

 それで、どうやって食料を、バイオ燃料を増産しようというのだろうか。機械、肥料、農薬、改良種子をいっぱい投入すればいくらでも増産でると考えているとすれば大間違いだ。却って土地の劣化を速めるだけだ。

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