農業情報研究所環境気候変動・災害・砂漠化・水問題等気候変動と農業・食料生産:2016年1月16日

暖冬で各地の果実・野菜生産が大打撃  温暖化の作物生産への影響 未知の領域に

 早くから警告されていた地球温暖化の作物生産への悪影響が、日本でもいよいよ実感されるようになったと言えようか。今年は日本各地から、暖冬の前例のない作物生産への影響が報告されている。前例がないのだから、既知の対策もない。

 南アルプス・赤石岳の麓、長野県下伊那郡大鹿村で、例年4月ごろ咲き始めるブルーベリーが早くも開花した。大鹿村鹿塩の「下島ブルーベリー園」、生食用などとして出荷するブルーベリーは約1400株あるが、昨年11月末ごろから約600株ある早生種が開花し始めた。例年4月ごろから開花するが、早生種「アーリーブルー」などは既に結実枝もある。通常より半年も早い。いつもの年は2〜2・5トンのブルーベリーを収穫できるが、「暖かさに対する対策はなく、収穫量にどれだけ影響があるか予想もつかない」という。

 同じく松川町の下沢登さんの畑では、例年3月ごろ開花する「竜峡小梅」の一部が既に二分咲きになった。下沢さんは「この時期に咲いても受粉しない。出荷はどれだけできるか」と気をもんでいるそうである。今後の凍霜害も心配だ。県南信農業試験場栽培部の小仁所(こにしょ)邦彦研究員は、「受粉しても、寒さが増せば成長途中の実が凍害を受けて収量が落ち込む」と指摘する。飯田市のみなみ信州農協果実課は飯伊地方の各地で梅が開花しているとし、「狂い咲きは近年多いが、これほど咲くのはこれまでにない。例年と比べ2〜3割減収となる可能性がある」と話しているという。

 県農業技術課は暖冬の影響について、リンゴや梨を含む果樹を中心に農作物の発芽や開花が早まって凍霜害の発生が予想されるとし、「県内全域の詳しい状況の把握に努めている」という。

 暖冬信州、農家に不安 飯伊で早くもブルーベリーや梅開花 信濃毎日新聞 16.1.15

 南信地方だけではない。 和歌山県紀南地方では、暖冬がかんきつ類や野菜に、品質低下や収量減などの打撃を与えている。早生温州ミカンでは皮が浮いたようになる「浮き皮」や腐る実が多発。「生果として販売できたのは例年の3分の1」と嘆く農家もいる。秋津町の農家男性は、「対策に防除剤も使用したが追いつかず、木になったまま腐る実も多かった。出荷量は例年と比べると約2割減で、例年より10日以上早く終わった」と話す。中晩柑の不知火(しらぬい)も10、11月に実が割れて腐り、半分くらいの実が落ちたという。

 秋津町の農家男性(42)も「対策に防除剤も使用したが追いつかず、木になったまま腐る実も多かった。出荷量は例年と比べると約2割減で、例年より10日以上早く終わった」と話す。中晩柑の不知火(しらぬい)も1011月に実が割れて腐り、半分くらいの実が落ちたという。JA紀南販売部によると、昨年12月の早生温州ミカン(レギュラー品)の市場出荷量は当初の見込みより約25%減、木熟ミカンで約30%減だった。11月中旬以降の高温や雨などで、浮き皮が発生したり、果皮障害が出たりして出荷できる実の量が減り、秀品率も下がった。

 こういう影響はミカンだけでなく、レタスや食用菜にも出ているという。

 ミカンや野菜に打撃 暖冬で品質低下、収量減 紀伊民報 16.1.9

 佐賀県では収穫が本格化しているイチゴの苗を枯らす立ち枯れ病が広がっている。例年は夏から秋にかけて発生し、気温の低下とともに終息するが、今季は暖冬の影響で1月に入っても被害が収まらない。当面の対策は枯れた苗を抜くしかない。

 立ち枯れ病は「イチゴ炭疽(たんそ)病」「イチゴ萎黄(いおう)病」「イチゴ疫(えき)病」の3種類があり、県農業技術防除センターによると、主に広がっているのはイチゴ萎黄病。萎黄病の病原菌はカビの一種で、土壌伝染と苗伝染によってまん延する。感染した苗は葉が小型化して黄色くなり、最終的には苗が枯死してイチゴも実らない。JAさが神埼地区いちご部会の中島辰義部会長は「これまで苗床で立ち枯れ病のような症状が出ることはあったが、定植後に倒れることはほとんどなかった」と困惑。「12月になっても夜間の気温が下がらず、地温が高いままで推移してきたことが、まん延の原因ではないか」と推測している。

 イチゴ立ち枯れ病 三神地区で拡大 佐賀新聞 16.1.16

 今年の暖冬が地球温暖化のせいだとすると、温暖化は作物生産への影響が予想できず、打つべき対策も見当たらないまでに進んでいるのかもしれない。これがコメやムギにまで広がる時期も近いのかもしれない。主食用米作付けを減らし・生産費は全額補助するから飼料用米を作れなどと言っていられる時代も、間もなく終わりを告げるかもしれない。TPPで幕を開ける「農政新時代」も徒花に終わるだろう。