フィリピン議会委員会 バイオ燃料促進法案を採択 食料不安を助長する恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

06,7.6

  フィリピン上院のエネルギー・農業・食料・財務合同委員会が6日、伝統的燃料にバイオジーゼルを含ませることを義務付ける法案を採択した。法案は、国内で販売されるすべてのジーゼルエンジン燃料に1%のバイオジーゼルをブレンドするべきだと述べる。また、フィリピンバイオ燃料ボード設置を求める。このボードは、すべて燃料への2%のバイオジーゼルのブレンドを2年以内に義務付けることを勧告できる。さらに、この法律施行の2年後にはバイオエタノールの5%のブレンドを実施、4年以内にこのブレンドの比率を10%にまで高めることも求めている。バイオ燃料利用促進のために、税率をゼロにすることも含む税制上の刺激措置も定めるという。

 それとは別に、アロヨ大統領も同日、石油資源に乏しいフィリピンが石油価格の世界的高騰を乗り切るために、エタノールその他代替燃料の利用を促進する計画を発表した。大統領は、エネルギー省に対し、車に利用できるココナッツオイル副産物を含むジーゼル混合のための一層多くの生産設備立ち上げの奨励を命じた。また、車、特にタクシーとバスの燃料となるガソリンやジーゼルの代替品としての液化天然ガスの利用を促進することも望んでいる。さらに、租税・税関当局に、エタノールの輸入を容易にすることも命じたという。

 Senate panels bat for increased biofuel use,ABS-CBN,7.6
 http://www.abs-cbnnews.com/storypage.aspx?StoryId=36065

 このような動きは、いまや東南アジア諸国も含む世界の主流になりつつある。だが、食料作物のバイオ燃料としての利用の増大は食料需給に影響、食料価格の上昇を通じて、とりわけ途上国における食料不安を煽るという懸念も高まっている。

 今月4日に発表されたOECD-FAOの2006-2015年世界農業見通し(OECD-FAO Agricultural Outlook 2006-2015)は、エネルギー価格が高どまるなか、粗粒穀物その他の穀物や油料種子・砂糖などからのバイオ燃料生産が増加、これらに対する追加需要を生み出すと予想している。他方、食料としての需要も増加を続ける。にもかかわらず、この見通しは、継続する生産性の成長と国際貿易における競争の激化が需要増加を埋め合わせる、世界の農産商品の価格は2015年まで長期的低落傾向を辿るだろうと楽観的である。

 しかし、FAO自身、バイオ燃料ブームが小農民、食料安全保障、農村開発に与える悪影響に懸念を表明したばかりである(FAO バイオエネルギー・ブームの悪影響を懸念 国際バイオエネルギー綱領を策定,06.4.26)。フィリピンでも食料不安が助長される恐れはないのだろうか。最近の国連開発計画(UNDP)の報告によれば(国連開発計画 アジア途上国は農業を重視 安価な輸入食料依存を減らさねばならない,06.7.3)、フィリピンの栄養不良人口の比率は22%で、東アジア途上国の中ではカンボジアの33%、モンゴルの28%に次いで高い。5歳以下の子供では、この比率は31%に達する。バイオ燃料生産の促進は、余程慎重に計画されなければ、この状況を改善するよりは悪化させる恐れがある。

 フィリピンでも、法案をめぐる倫理的問題とも結合した食料-燃料論争が起きているようだ。

 フィリピン・Business World紙によると、フィリピン飼料製造者協会(PAFMI)に率いられた飼料製造業者が批判の声を上げている。飼料部門だけでも、年々550万トンのコーンが必要で、これは国内生産者から調達される。しかし、ラ・ニーニョがもたらす大雨によるトウモロコシの不足や品質低下が予想される。それに備え、今までに3万トンの飼料用コーンを中国から輸入した。このように原料調達に苦闘しているときに、砂糖キビ、キャッサバ、サトウモロコシ、トウモロコシ、ココナッツなどの食料が車を走らせるための燃料に使われようとしてしていると批判する。

 別の批判もある。法案が要求するような大量のバイオ燃料の生産を実現するための投資の見通しも立たないということだ。もし上院法案が通れば、フィリピンは年々2億リットルから4億リットルのエタノールを生産せねばならない。それには新たに14のエタノール工場を建設する必要がある。一日当たり10万リットルの生産能力を持つ工場は、飼料として利用される砂糖キビ、トウモロコシ、キャッサバなどの作物生産の費用も含め、20億ペソ(約45億円)の投資を必要とする。しかし、今はエタノール工場は一つもないという。

 Agri sector airs concerns on biofuels,Business World,7.5

 しかし、それが実現されたとしても、FAOが恐れるような、「小農民をまったく利することなく、少数のアグリ-エネルギー巨大企業が支配する部門を生み出す」だけの「集約的な換金作物に依拠する大規模なバイオエネルギー促進」に終わる可能性がある。FAOは、「今までのところ、これにかかわる複雑な技術的・政治的・制度的問題に取り組むいかなる包括的試みもなされていない」と言うが、フィリピンもまた然りである。