FAO バイオエネルギー・ブームの悪影響を懸念 国際バイオエネルギー綱領を策定

農業情報研究所(WAPIC)

06,4.26

 国連食糧農業機関(FAO)が24日、バイオエネルギーへの大々的シフトを歓迎しながらも、小農民、食糧安全保障、農村開発などに対するその影響は十分に知られていないとして、この欠陥を埋めるための国際バイオエネルギー綱領(IBEP)を策定したと発表した。これは、5月9日、国連に正式に提出されるという。

 FAO sees major shift to bioenergy,06.4.25
 http://www.fao.org/newsroom/en/news/2006/1000282/index.html

 発表によると、石油価格高騰と増大する環境上の束縛の圧力の下で、化石燃料から更新可能なエネルギーへの大規模な国際的転換の機が熟している。FAO持続可能開発局のアレクサンダー・ミューラー次長は、「漸進的な石油離れが始まった。来るべき15年から20年の間に、バイオ燃料が世界のエネルギー需要の25%を満たすことになろう」と言う。

 環境的束縛ー地球温暖化と二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出の京都議定書による抑制ーが強まっていることや、石油依存のリスクへの政府の理解が深まっていることが、このような変化を促す要因になっている。

 FAOのバイオエネルギーへの関心は、エネルギー作物が農村経済に与えると期待される好影響や各国にエネルギー源多様化の機会が与えられることから生じた。FAOのグスタボ・ベスト上級エネルギー調整官は、「これは、少なくとも、国際価格が急落した砂糖のような商品に新たな息を吹き込むことができる」と言う。

 大規模な化石燃料離れの動きは、エネルギーの生産と調達の広大な国際的基盤を作りだすと期待される。しかし、この問題に関するFAOの関心の焦点は、小農民、食料安全保障、農村開発へのあり得る影響にあるという。

 ベスト調整官は、「農民、とくに熱帯地域の農民は、生産増加と所得引き上げの新たな機会を見ている。しかし、我々は慎重である必要がある。計画が必要だ。食料生産とエネルギー生産の間での土地の競合は共通のプラスの便益に転換される必要がある」と警告している。

 例えば、集約的な換金作物に依拠する大規模なバイオエネルギー促進は、小農民をまったく利することなく、少数のアグリ-エネルギー巨大企業が支配する部門を生み出す恐れがある。しかし、今までのところ、これにかかわる複雑な技術的・政治的・制度的問題に取り組むいかなる包括的試みもなされていないという。

 この欠陥を埋めるために、FAOはIBEPを策定した。それは、政府と民間事業者がバイオエネルギー政策と戦略を定めるための専門的知見や意見を提供する。また、それらがバイオエネルギー資源や、持続可能な開発にとっての意味を国ごと評価する手段を開発するのも助ける。さらに、国・地域・世界のバイオエネルギー開発促進におけるFAOの経験に頼り、国家バイオエネルギー計画の策定も助けるという。

 ミューラー次官は、「十分な燃料と十分な食料の生産を助け、またすべての人々の便益を保証することが目標だ」と言う。

 今やブラジルのみならず、中国や東南アジア諸国を含む多くの途上国にも広がったバイオエネルギー・ブームは、食料生産との土地の競合、森林破壊、小農民の駆逐など、様々な問題を引き起こしている。しかし、ほとんどの国の政府やエネルギー企業は、問題意識さえもたないのが現状だ。FAOの試みがどこまで成功するかは分からないが、歓迎すべき新しい動きだ。

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