食料作物原料のバイオ燃料 温暖化抑制への寄与は少さく、食料不足も招くー米国の研究

農業情報研究所(WAPIC)

06,7.12

 米国で沸き立っているコーンを原料とするバイオエタノールブームに冷水を浴びせる新たな研究が発表された。全米科学アカデミー・Proceedings誌(*)に発表されたこの研究によると、食料作物からエタノールのようなバイオ燃料を生産することよりも、セルロースのような消化できない植物物資からのエタノール生産に努力を集中すべきだという。

 米国では2005年に39億ガロンのエタノールが生産されたというが、その97%はコーンを原料とするものという。今後生産が急増すると見られれるバイオ燃料もコーンを原料とするエタノールだ。このようなバイオ燃料は温室効果ガス排出を削減できると宣伝されている。

 USDA:The Economic Feasibility of Ethanol Production From Sugar in the United States,06.7
 バイオ燃料エタノールブームに隠れたリスク 米国で懸念が広がる,06.6.26

 ところが、コーンや大豆を原料とするバイオ燃料の生産には、農業機械の生産や運転、農薬や肥料の製造、収穫物を燃料に加工するための大量の石油が必要になる。バイオ燃料の利用は、全体として見ると、必ずしも温室効果ガスの排出削減につながらないのではないかという疑いがある。

 研究者は、このよう疑問に答えるために、これら燃料の生産のすべての環境コストの計算を試みた。その結果、コーンを原料とするエタノールは確かに温室効果ガス削減に寄与するが、ガソリンに比べての排出量は12%ほど減るにすぎないことがわかった。

 大豆を原料とするバイオジーゼルでは、大豆生産のための肥料や農薬がコーンよりも少なく、また燃料に加工するための蒸留が無用であるために、ガソリンに比べての排出量は大きく(41%)減る。

 しかし、米国で生産されるコーンと大豆のすべてをバイオ燃料生産に当てたとしても、米国におけるガソリンとジーゼル燃料の必要量の5%に満たないバイオ燃料しか生産できない。その上、それは世界的食料不足も引き起こすだろう。食料を燃料に変えることは、長期的には決して賢明な選択ではないという。

 研究者は、草原地帯に生育し、放棄された農地で栽培することもできる草のような消化できない植物繊維を原料とするセルロース系エタノールの方が温室効果ガス排出削減に大きく貢献すると言う。それは、動植物生息地を破壊せず、農薬や肥料の使用も少なくてすむ。

 折りしも、米国エネルギー省は、なお克服すべき重大な技術的課題はあるが、2030年までに米国の石油燃料の30%がセルロース系エタノールに変えられるする報告を発表している。

 Breaking the Biological Barriers to Cellulosic Ethanol: A Joint Research Agenda,06.7.7
 http://www.doegenomestolife.org/biofuels/

 *Hill J., et al. Proc. Natl Acad. Sci., doi:10.1703/pnas.0604600103 (2006).

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