中国 エタノールビジネスが過熱 トウモロコシ不足で食料不安を周辺国にも輸出の恐れ

農業情報研究所(WAPIC)

07.4.11

 トウモロコシの大量利用が食料品価格を直撃、将来の食料安全保障に暗雲をかけてきた中国のるエタノールビジネス(中国 バイオ燃料生産増加が食料品価格を直撃 食料安全保障の暗雲,06.12.12)がますます高揚している。チャイナ・デーリー紙の報告によると、政府はエタノールの原料とするトウモロコシの量を300万トンまでに制限しているが、昨年はその5倍以上の1600万トンも使われたと見られる。大部分は、政府規制が行き届かない小規模不認可生産者によるものという。

 Industrial demand for corn increasing,China Daily,4.10
 http://www.chinadaily.com.cn/bizchina/2007-04/10/content_846873.htm

 関係者の話によると、承認されいないトウモロコシ原料エタノールの生産が全生産高の大部分を占める。国家開発改革委員会は昨年12月、中国のエタノール工場の実際の生産能力は、吉林省、黒竜江省、安徽省、河南省の4つの公認工場の能力の10倍にも相当する1000万トンに達したと語っている。そして、中国語メディアの報ずるところでは、承認されていない生産物は承認された生産者か、製油所に販売される。かくて、トウモロコシ価格は昨年後半以来15%上昇したという。

 なお、中国は2020年までに国のエネルギーの10%を更新可能なエネルギー源から調達する目標を立てている。自動車燃料としてのエタノール利用は試験中で、現在5省の全域と他の4省の一部地域でガソリンへの10%混合が行われている。パイロット計画でクリーン燃料ユーザーとして指定された7省のエタノール混合ガソリンの年間生産量は1020万トンに達しているが、エタノール原料の大部分はトウモロコシである(World Ethanol Marlets The Outlook to 2015,F.O.Licht,2006による)。このような試行段階においてさえこの状態では、将来はどのようなことになるのか想像もつかない。

 当然ながら政府も危機感を強めているようだ。新華網の別の報道によると、政府は9日、急増する飼料用・工業用利用のための需要を満たすために、2010年には、(今年は1億4400万トンと予想されるトウモロコシ生産を)1億5000万トンに増やすと発表した。といっても、農地全体が先細りするなか、トウモロコシ作付面積は増えるどころか多少は減る(現在の2700万fを若干超えるレベルから、これを若干割り込むレベルへ)。従って、農家に高収量品種の採用、栽培技術改善、施肥、一層近代的な技術と機械の利用を促すことで、1fあたり収量を昨年の5.25トンから5.63トンに増やし、この生産目標を達成するのだという。

 China to increase corn output to 150 mln tons in 2010,xinhua.net,4.10
 
http://news.xinhuanet.com/english/2007-04/10/content_5958879.htm

 しかし、この程度の増産で増加する需要を賄うことはできるのだろうか。先のチャイナ・デーリー紙に戻ると、中国穀物取引協会(Chinese Grain Commerce Association)のWang Ziming前会長は、昨年はエタノール用が45%だったトウモロコシの工業的利用の需要は2010年までに年々30%増え、他方で飼料用需要も毎年4%ほど増えると言う。

 全体として1億4400万トンから1億5000万トンへの、すなわち4%ほどの増加で、このように増える需要を賄えるはずがない。この需要を満たそうとすれば輸入に頼るほかない。しかし、最大の輸出国である米国もエタノール・ブームで輸出力は減るだろうから、中国食料経済が今後数年の間に重大な挑戦に直面するのは明らかでなかろうか。

 更新可能なエネルギーの目標を達成するためには、ブラジルのエタノールの輸入に頼らざるを得ないだろう。実際、米国、インド、ベネズエラ、韓国、ヨーロッパ、日本などともに、中国も既にブラジルとの輸入交渉に走っている。しかし、中国の巨大な人口と今後の自動車輸送の増加をを考えるとそれでも足りないだろう。

 最近とみに中国企業の農業開発のための進出が目立つフィリピン、あるいはさらにインドネシア、マレーシア、タイなど東南アジア諸国からのエタノール原料や製品の大々的輸入にも走る可能性がある。そして、それぞれの輸入先国の食料作物のバイオ燃料原料作物への転換を加速することで、自国が直面する食料安全保障への脅威をこれらの国々に”輸出”していくことになるかもしれない。

 実際、最近、中国のFu Hua社は、ハイブリッドトウモロコシ、ハイブリッドライス、ハイブリッドソルガムの栽培のためにフィリピンの100万fの土地に38億ドル(4500億円)を投資する協定を、またNanning Yongkai Industry Groupはいくかのフィリピン企業と組んで4つのバイオエタノール工場を立ち上げる協定をフィリピン農業省との間で結んでいる。

 DEPARTMENT DEFENDS PHILIPPINES-CHINA AGRI-BUSINESS DEALS,World-Grain.com,9.9(via PNAAsia Pulse)

 関連情報
 気候変動で食料生産が先細り、さらにバイオ燃料が食料危機を呼ぶ皮肉(highlight),07.4.9