中国 エタノール燃料生産原料を非食料品に全面切り替え 実効は不透明

農業情報研究所(WAPIC)

07.6.12

   飼料用トウモロコシを原料とする石油代替エタノール燃料の生産の増大に起因する豚肉・卵など食料品価格の高騰に音を上げた中国(参照)が、エタノール燃料生産の原料を全面的に非食料品に切り替えることになりそうだ。

 新華網が伝えたもので、先週土曜日(5月9日)に北京で開かれた中国の燃料エタノール開発に関するセミナーで、国家発展改革委員会(NDRC)係官が、国は今後、食料からエタノールを生産するプロジェクトを承認しないだろうと語った。また、同委員会内の”能源領導小組弁公室(エネルギー指導グループ弁公室)”の徐 錠明(Xu Dingming,)副主任は、”食料ベースのエタノール燃料は中国が目指す方向ではない”と語ったという。

 NDRCの匿名係官によると、現在、吉林、黒竜江、河南、安徽の4つの企業がトウモロコシを原料とするエタノール燃料を合せて年に102万トン生産する能力を持っているが、これら企業は漸次非食料原料に切り替えるように要求されることになる。

 China mulls banning food in ethanol fuel production,xinhua,07.6.11
 http://news.xinhuanet.com/english/2007-06/11/content_6224333.htm

 NDRC係官によると、中国は米国、ブラジル、EUに次ぐエタノール燃料の大生産・消費国となった*。 

 中国最大の石油・食料輸出入会社・COFCOの会長は、セミナーで、ソルゴー(スウィート・ソルガム)が非食料原料の中心になるだろうと語った。黒竜江省の企業を持ち、安徽省の企業の20%の株を持つ同社は、近い将来、ソルゴーを原料とするエタノール燃料を500万トン生産することを目指す。

 同社は、セルローズ系エタノールの大規模生産に必要な酵素の探索で世界をリードするデンマークのノボザイムズ(Novozymes)社との協力協定の下で、セルロース系エタノール燃料の開発を先導している。トウモロコシの茎からのエタノール生産の現在の価格は高すぎるが、米国と中国の両方でセルロース系エタノールの商品化に取り組んでいるノボザイムズ社のスティーン・リスゴー(Steen Riisgaard)会長兼CEOは、”トウモロコシの茎の収集コストは中国のほうがずっと安いから、米国に先んじるという中国の期待について楽観している”と語ったという**

 (以下、農業情報研究所=WAPICの見方)

 ただ、このような中国政府と中心企業の動きが実際にトウモロコシのエタノール生産用利用の制限につながるかどうかは不透明だ。中国のトウモロコシ原料エタノールの大部分はこれら4工場以外の未承認で、恐らくは取り締まりも困難を極める地方散在小工場で生産されているからだ。これらの工場の生産能力も含めるとすでに4工場の公認生産能力の10倍に相当する1000万トンの生産能力があるという(中国 エタノールビジネスが過熱 トウモロコシ不足で食料不安を周辺国にも輸出の恐れ.07.4.11) 。これらの無数とも言える工場は、食料・飼料としての利用よりもエタノール原料として利用の方が儲かるかぎり、相変わらず非合法なエタノール生産を続けるに違いない。

 *F.O.Licht社調査による世界主要国・地域のエタノール生産量は次表のとおりである(単位:10億リットル)。[「at」 (オルター・トレード・ジャパン編集、大田出版発行、第7号、07年4月) 87頁より再掲)

 

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

06/00

EU

2.41

2.56

2.54

2.50

2.50

2.72

3.14

1.3

フランス

0.81

0.81

0.84

0.82

0.83

0,91

0.95

1.2

ドイツ

0.29

0.30

0.28

0.28

0.23

0.35

0.55

1.9

スペイン

0.15

0.23

0.26

0.29

0.33

0.38

0.48

3.2

その他ヨーロッパ

3.66

3.95

3.99

3.98

3.97

4.17

4.49

1.2

ロシア

0.62

0.66

0.73

0.75

0.78

0.75

0.77

1.2

アフリカ

0.49

0.50

0.51

0.54

0.57

0.59

0.64

1.3

南アフリカ

0.34

0.35

0.35

0.36

0.39

0.39

0.41

1.2

アメリカ

19.25

20.66

23.23

27.81

30.02

33.35

37.30

1.9

ブラジル

10.61

11.50

12.62

14.73

14.66

16.07

16.75

1.6

米国

7.60

8.12

9.60

12.06

14.32

16.21

19.15

2.5

アジア

5.72

5.88

6.02

6.54

6.43

6.61

7.15

1.25

中国

2.97

3.05

3.15

3.40

3.65

3.80

3.85

1.3

インド

1.72

1.78

1.80

1.90

1.65

1.70

2.00

1.2

タイ

0.06

0.10

0.18

0.25

0.28

0.30

0.44

7.3

オセアニア

0.18

0.18

0.18

0.16

0.15

0.15

0.20

1.1

オーストラリア

0.15

0.15

0.16

0.14

0.13

0.13

0.18

1.2

世界

29.30

31.18

33.93

39.04

41.15

44.87

49.79

1.7

   出所:World Ethanol Marlets The Outlook to 2015,F.O.Licht,2006,S1.

 **ただし、米国農務省農業研究局が、土壌中有機物のレベルの維持や土壌浸食の防止を考えれば、相当量のトウモロコシ茎を土地に戻す必要があり、茎といえども無闇にエタノール生産に使うことはできないという研究を発表していることについては以前に伝えた⇒マスコミにも広がる食料と競合するバイオ燃料への疑念 が、食料と競合しなければよい?,07.5.14。

 関連情報