世界の多数の団体がEUのバイオ燃料突進のモラトリアムを要請

農業情報研究所(WAPIC)

07.5.28
(最終改訂:18:05)

 世界の30以上のグループが、EUがバイオ燃料に向かって突進するのを停止させる”モラトリアム”を要請している。

 企業とその圧力団体の経済・政治力が民主主義・平等・社会的公正・環境にもたらす脅威を標的にしたヨーロッパの研究・活動グループ・Corporate Europe Observatory(CEO)、バイオ燃料の世界市場の環境影響を追究、持続可能な方法で得られたバイオ燃料だけがEUで販売できるように保証する運動を展開しているBiofuelwatch、遺伝子操作・組み換えを科学的に批判、その環境・健康・食料安全保障・農業・人権・社会への影響を調査し・報告する活動を続けるEcoNexusの3団体が27日に発した共同報道発表は次のように述べる。

 Groups from around the world call for a moratorium on EU incentives for biofuels from large-scale monocultures,UN Observer,6.27

 今日、世界中の30以上のグループが、バイオ燃料(またはアグロ燃料注1)へのEUの突進を止める”モラトリアム”を要請している。彼らは、EU市場向けのアグロ燃料は気候変動を加速し、生物多様性を破壊し、地域社会を滅亡させると警告する。[モラトリアム文書]署名者は6月26日と27日にブリュッセル[EU本部]を訪問、アグロ燃料の地域社会・生物多様性・気候への影響に関する彼らの懸念を欧州議会に伝える。彼らは、この損害を防止するためにEUが現在考案中の認証プロジェクトの能力に懐疑的である。

 2007年3月、EU諸国首脳は、2020年までに 消費されるエネルギーの最低10%までをアグロ燃料に置き換えることを決定した。欧州委員会は、これらアグロ燃料の大部分が南半球からのパームオイル、大豆、砂糖キビから生産されるという予想を明確にした。ヨーロッパで全量を生産するためには、最大でEUの農地の50%が必要になる。2010年までの5.75%という現在の目標でさえ、既に大規模モノカルチャーの拡張を刺激し、東南アジアの熱帯・亜熱帯森林・草地・泥炭地[参照:インドネシア 泥炭地破壊で世界第3位のCO2排出国 木材・パームオイル需要と地域経済開発が元凶,06.11.6]と多数の地域社会に損害を引き起こしている。10%という目標は、南半球におけるインフラや生産のためのビッグプロジェクトに一層の弾みをつけることになる。インドネシアだけでも、将来のアグロ燃料需要を満たすために、オイルパーム(油椰子)プランテーションの2000万f 以上の拡張を計画している。その大部分が地域社会の土地・泥炭地・森林を犠牲にした拡張と予想される注2)

 CEOのニーナ・ホランドは、「首脳はアグロ燃料の持続可能な調達が目標の前提条件であるべきだと明言した。持続可能性を保証する提案は皆無である。欧州委員会は、地域社会が立ち退きを強制されなかったプランテーションからのバイオ燃料を”持続可能”と分類する”基準”を提案したが、モノカルチャー・プランテーションによる他のタイプの農業の追いたてから生じる大規模森林破壊には取り組もうとしていない。持続可能な調達のいかなる保証もないから、我々はアグロ燃料助成・奨励・輸入のモラトリアムが必要だ」と述べる。

 Biofuelwatchのアルムート・エルンスティングは、「ヨーロッパのバイオ燃料政策は、温室効果ガス排出を減らすどころか、世界の最も重要なカーボン・シンクである熱帯と亜熱帯の森林と泥炭地を破壊することで、地球温暖化を加速する恐れがある。ヨーロッパにおいてさえ、アグロ燃料[の原料作物]を育てるために一層多くの肥料が使用されるから、大量の窒素酸化物が放出されることになり、セットアサイド[EUレベルでの強制的休耕]が廃止されるから生物多様性も損なわれる。ヨーロッパの自動車産業は、炭素排出削減にとって決定的に重要な厳格な燃費基準を回避する手段としてバイオ燃料を使ってきた。気候変動の最悪の影響を回避する希望を棄てたくないならば、我々に必要なのはヨーロッパにおける燃料使用の劇的な削減であり、ヨーロッパの車のために広大なモノカルチャーで育てられる穀物や油料作物ではない」と付け加える。

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 2030年までにバイオエタノール・600万キロリットルの国産化を目指した日本政府も同罪だ。日本エネルギー経済研究所(経産省所管財団法人)は、国内遊休農地を使ったバイオエタノール生産は100万リットルほどが限界と試算している。ブラジルからの輸入への依存は不可避という(2007年6月22日定例研究報告会、または「バイオエタノール ブラジル産依存 不可避に」 日本経済新聞 6月22日)。バイオエタノール生産拡大のためのサトウキビ・モノカルチャー・プランテーションの拡大が地域社会の「立ち退き」を強制し、「他のタイプの農業」を追いたて、アマゾン森林破壊を加速していることについては、既に何度も指摘してきた。

 エネルギーの”地産地消”のためのバイオエネルギー開発に反対するつもりはない。むしろ助成・奨励が望ましいと考える。しかし、少なくとも現在進行中の大企業による巨大な開発輸入プロジェクト(例えば、三井、ブラジルでエタノール生産輸送コンプレックス 2011年の対日輸出量は30億リットルにも,07.6.21;日本企業 レイテにバイオ燃料工場 フィリピン民衆の食料と命を収奪か?,07.6.11)は緊急の”モラトリアム”が必要だ。そして、やはり重要なことは、「燃料使用の劇的な削減」だ。ただ、”精神論”では意味がない。例えば、車の利用を無用にし・不便にさえする都市(空間)計画で「物理的(唯物論的)」に車社会からの脱却を強制する。これによる郊外安売り大規模店の消滅は、世界中から最も安価な商品を運び集めるために必要な大量のエネルギーも無用にする。

 しかし、日本人は、こんなことにはとんと無頓着のようだ。

 注1)インドネシア農民同盟連合(Federasi Serikat Petani Indonesia (FSPI))の事務局長であり、国際農民運動・ラ・ヴィア・カンペシーナのコーディネーターでもあるHenry Saragihによると、”バイオ燃料”という用語は、植物由来のエネルギーが環境に優しいと我々に信じ込ませるトリックのように見える。農産物に由来する燃料という意味で、”アグロ燃料”と呼ぶべきではないかと言う。

 We need agrofuel, not biofuel, right? ,The Jakarta Post,6.26
 http://www.thejakartapost.com/yesterdaydetail.asp?fileid=20070626.F05

 注2)世界雨林運動(World Rainforest Movement)によると、インドネシアには既に600万fほどのオイルパーム地があり、そのためにその3倍の1800万fの森林が刈り払われた。既存の地域計画を総合すると、主にスマトラ、カリマンタン、スラウェシ、西パプアでさらに2000万fのプランテーションが追加されることになる。そして、ボルネオの核心部では180万fの世界最大のパーム・オイル・プランテーションを作る新たな計画が議論されている (参照:石油価格高騰でパームオイル・ブーム 森林・野生動物・原住民・環境に破滅的影響の恐れ,05.10.13)。

 Indonesia: Oil palm expansion for biofuel bringing more exploitation than development,2006年11月

 なお、注1)のHenry Saragihの上記論説によると、インドネシア政府は、2010年までに少なくとも550万fのバイオ燃料プランテーション用地の開拓を計画している。政府植物燃料開発戦略では、2010年までにサトウキビ75万f、キャッサバ・(荒地でも栽培できるとされる)ヤトロファ・オイルパームそれぞれ150万fの新たに開発されたプランテーションからバイオ燃料を供給することになっており、ユドヨノ大統領がこの目標に全面支持を与えている。これは多くの森林を犠牲にすることになる。同時に、トウモロコシ、大豆、キャッサバなどの食料作物のバイオ燃料作物の転換で国内食料供給を減少させ、人々の”食料主権”を脅かすことになる恐れが強いという。