フィリピン・ミンダナオで水田にヤトロファ バイオ燃料は貧しい農民を救うのか

農業情報研究所(WAPIC)

07.12.12

 国連食糧農業機関(FAO)の推計では、バイオ燃料の食料品価格上昇への寄与度はせいぜい20−30%にすぎない。それにもかかわらず、近頃、穀物・食料品原材料の価格高騰の原因を 、深く考慮することもなく、ことごとくバイオ燃料に帰する風潮が広がっている。ならばと、バイオ燃料生産・利用の拡大を唱える諸国政府や、それに商機を見出す企業や業界は、食料品以外の原料を使えばよかろうと開き直った。そして、例えば世界中でヤトロファの大規模栽培に乗り出している。これは食用作物が育たない乾燥地や荒地でも育ち、その実は油分を大量に含むから、食料には何の影響を与えることなく、バイオディーゼルの原料として大規模に栽培できる、途上国の貧しい農村の経済発展や貧困軽減にも貢献できるというわけだ。

 かくて、フィリピン・アロヨ政府も、ディーゼルにバイオディーゼル1%のブレンドを義務づけるバイオ燃料法の目標を達成するためと称して、70万fの土地にヤトロファを栽培する計画の実施に乗り出した(フィリピン ヤトロファ原料のバイオディーゼル大増産へ,07.8.29)。しかし、それは本当に食用作物地を浸食することなく、また農村振興や貧困削減に結びつくのだろうか。アロヨ大統領が計画実施を急げとハッパをかけたと言われるネグロス島の例では、大量の小作農民が小作地を追われることになりそうだ(バイオ燃料生産計画で巨大地主が土地取り上げーフィリピン・ネグロスで沸く非難,07.10.9)。インクワイアリー紙が12月10日付で伝える情報は、こうした疑いをさらに強める。

 Biofuels gain, but food farms, forests lose,INQ,12.10

 この報道によると、かつてモロ・イスラム解放戦線と政府軍との戦場であったミンダナオ・セパカ(Sepaka)村の最近選ばれたばかりのArcangel Pagculan村長は、ブリティッシュ・ペトロレウム(BP)と組み、インド、南ア、東南アジアで大々的ヤトロファ栽培計画を展開する英国食品企業・D1 Oilesの技術者の話を信じ、過去2年間不作が続いた水田をヤトロファに転換した。

 ここの村は灌漑施設を持つが、輸出用バナナの栽培が優先され、稲作は天水(雨水)に頼り、病虫害にも悩まされている。D1の技術者は、ここではヤトロファに転換した方が儲かる、ヤトロファは半年で実をつけると転換を誘った。これを信じ、取りあえず7fの土地のうちの2fに、実験的にヤトロファを植えた。実験が成功すれば、すべての土地にヤトロファを植えるという。

 他方、村民の一人である49歳の女性・Erlinda Garciaやその他の何人かにとっては、オイルパームやヤトロファの栽培へのラッシュは、今やパームオイルのために排水された池に豊富だった屋根葺き用のチガ―一束17ペソ(1ペソは約2.7円)で売れる―や、自生の淡水巻貝などの現金収入源を失うことを意味する。彼女たちは、稲作がなくなれば、除草、落穂ひろい、収穫などの季節労働者としての職も失うことになる。これら生計の手段を失えば、近くのバナナチップ加工工場での”不良品”あさりに頼るしかなくなる。最近、有機野菜栽培も覚えたという。

 ヤトロファが実をつけるまでの間は何を食べるのか、という記者の問いに、新村長は、「私には他の村人に貸し出すことのできる機械鋤や脱穀機がある、貸し賃は米などの現物でも受け取る」と答える。記者は、もしも彼の仲間の米農民がこの指導者の範例に従ったら、彼の鋤や脱穀機の借り手はいなくなる、さらに、ヤトロファ・オイルパーム農園に飢餓が付きまとうことになるかもしれないと言う。

 この報道は、ムスリム・ミンダナオ自治区では、米のような食料作物地のバイオ燃料用農産プランテーションとしての利用がゆっくりと進んでいる、アジア開発銀行の支援で原料を運び込むパイロット加工工場も間もなく建設されると 伝える。