豪ビクトリア州議会委員会 バイオ燃料利用目標義務化に反対の最終報告

農業情報研究所(WAPIC)

08.2.12

 オーストラリア・ビクトリア州議会の経済開発・基盤整備委員会が今月7日、バイオ燃料利用の義務的目標の導入の是非に関する07年3月以来の研究調査の最終報告書*を発表した。委員会報告にはビクトリア州のバイオ燃料と石油代替燃料の開発に関する27の勧告が含まれるが、最も基本的な勧告は、ビクトリア政府はバイオ燃料の義務的利用目標を導入すべきでないということだ。義務的利用目標の導入をやめるべきだ、すでに導入したところでは廃止を考えるべきだという昨年のOECD持続可能な開発円卓会議議長報告(OECDの研究 バイオ燃料補助金廃止を求める 温室効果ガス削減には非効率、生態系損傷も,07.9.11)の欧州委員会も拒否した勧告が、(筆者の知るかぎりで)初めて政治に明確に反映されたと言えるかもしれない。

 *ECONOMIC DEVELOPMENT AND INFRASTRUCTURE COMMITTEE; Inquiry into Mandatory Ethanol and Biofuels Targets in Victoria,February 2008.
  http://www.parliament.vic.gov.au/edic/inquiries/biofuels/Report/EDIC_BIOFUELS_REPORT_2008.pdf

 報告は、コストとリスクはベネフィットを上回る故に、利用目標の義務化は避けるべきだと結論した。

 報告によれば、OECD報告が言うのと同様、バイオ燃料による温室効果ガス(GHG)排出削減は他の選択肢に比べて費用効率が悪すぎる。例えば、既存の排出権取引を通してならば、バイオ燃料生産への政府補助の5分の1の費用で排出削減目標を達成できるという。

 また、エタノールのGHG削減効果は、エタノールの生産・加工・輸送からの排出や、石油に比べてエネルギー密度が低いことからくるエタノールブレンド燃料の消費量増加を考慮するときには、ほとんど無視できるほどでしかない(小麦エタノールでは0.7%)ともいう。

 そのうえ、バイオ燃料義務化によるエネルギー安全保障のベネフィットもほとんどないに等しく、小麦やソルガムなどへの干ばつや作物病の影響を考えると安定供給も保障されず、悪影響さえ考えられる。オーストラリアのエタノールはほとんど専ら穀物から生産されるから、バイオ燃料義務化により、干ばつ時には一層の化石燃料輸入を余儀なくされることにもなりかねないという。 

 バイオ燃料義務化によって起きるかもしれない穀物や食料品の価格の上昇に関連したコストは、生産者と消費者にとってのあらゆるベネフィットを上回るという。

 ただ、委員会は、利用目標義務化には反対しても、バイオ燃料開発に反対しているわけではない。報告は、地方に立地する小規模なバイオ燃料工場が地方コミュニティーへの投資を助長すると強調、バイオ燃料を通しての地域開発を促進するための多くの勧告を行っている。地方バイオディーゼル企業は、特に原料が地元で調達され、消費者も地元企業である場合には、地域開発促進の非常に有力な手段になるという。

 そのために、政府が輸送業者にバイオディーゼル利用を要請すること、官民の公共輸送業者がB5(バイオディーゼル5%混合ディーゼル燃料)を利用するパイロット・プロジェクトを始動させること、なども勧告している。 


  それにつけても、わが国議会の調査能力の低さが浮かびあがるばかりだ。洞爺湖サミットも近いというのに、政府、議員は一体何をしているのだろう。

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