若林農相 「食料と競合しないバイオ燃料」の重要性を洞爺湖サミットの議題に

 農業情報研究所(WAPIC)

08.3.22

 若林正俊農相が「食料供給と競合しないバイオ燃料の生産拡大が大事という視点」を洞爺湖サミットで議論してもらいたいと述べたそうである。21日の参院予算委員会で平野達男氏(民主)の質問に答えたという。

 バイオ燃料:食料と競合しない「日本型」を…若林農相 毎日新聞 2008年3月21日 19時37分
 http://mainichi.jp/select/science/news/20080322k0000m010060000c.html

 トウモロコシなど食料作物を原料とする米国などでのバイオ燃料の生産拡大が穀物価格の高騰を招いていることから、サミットや事前に開かれる環境やエネルギー関係の閣僚会合でも「食料と競合しないバイオ燃料」(具体的には、日本ではそれしか生産できない”稲わらや木材などセルロース系の原料を使う”バイオ燃料)の重要性を提唱し、宣言に盛り込みたい意向という。

 農水省は、ことしの予算概算決定にあたっても、「洞爺湖サミットに向けて、食料供給と競合しない我が国独自のバイオ燃料生産拡大策を世界にアピール」すると大張り切りだったから、これで議長国として鼻を高くするのに大きく貢献できると思っているらしい。

 しかし、これで世界にアピールできるというのはとんでもない思い違いだ。現在の食料作物を原料とするバイオ燃料に自身満々なのは、サトウキビを原料とするエタノールを大々的に生産するブラジルぐらいのものだ。

 米国も、EUも、日本に言われるまでもなく、セルロース系エタノールなど、食料と”直接”競合しないバイオ燃料の開発に、すでに大量の資源を注ぎ込んできた。将来の義務的利用目標の設定も、その実用化を前提としている。

 昨年12月に成立した米国2007年エネルギー法は、、2022年のバイオ燃料利用目標量をは現在の7倍以上の360億ガロンに定めたが、トウモロコシ・エタノールは2015年までに150億ガロンに増やすにとどめ、あとの210億ガロンは、その後の実用化を前提に、第二世代バイオ燃料で満たすとしている。EUは、2020年に輸送用燃料の10%までをバイオ燃料に置き換える目標を掲げるが、これは第二世代バイオ燃料の大量生産が可能になるという条件でのみ”義務的”目標とするとされている。

 少なくともこれら諸国に「食料供給と競合しない我が国独自のバイオ燃料生産拡大策」をアピールするのは、お節介、お門違い、それで鼻高々ということなら、世界の笑いものにもなりかねない。それとも、これら諸国に、食料作物を原料とするバイオ燃料の生産はもうやめなさいとでも言うつもりなのだろうか。しかし、そのためには、先ず日本が、利用目標を達成するためには輸入に頼らざるを得ない外国の食料と競合するバイオ燃料を一切シャットアウトしなければならない。

 将来は欧米同様に第二世代バイオ燃料に期しながら、欧米のようには国内で生産できない第一世代バイオ燃料は輸入に頼るとすれば、日本が世界に誇るべき独自のメリットがどこにあるというのだろうか。「輸出国における森林伐採、生態系、先住民への影響、土壌や河川の汚染、土壌浸食などの負の影響」(総合資源エネルギー調査会石油資源分科会次世代燃料・石油政策に関する小委員会:中間とりまとめ:バイオ燃料の今後のあり方について:案:資料2、平成19年12月)への政策対応を欠く日本のバイオ燃料政策は、むしろ、”持続可能なバイオ燃料”を求める世界の潮流(注)から完全に取り残されている。

 ただし、”持続可能なバイオ燃料”などどこにもない。第二世代バイオ燃料の開発に成功したとしても、バイオ燃料の温室効果ガス削減への寄与は極めて限られており、この削減の費用効率も極度に低 く、”持続可能性”は保証されない。「不効率な新しい供給源を補助するよりも、歩行、自転車、自動車相乗り、エンジンの一層頻繁なチューンアップなどのほうがはるかに効率的な化石燃料節約策だ」(OECD持続可能な発展円卓会議議長報告OECDの研究 バイオ燃料補助金廃止を求める 温室効果ガス削減には非効率、生態系損傷も,07.9.11;コラムバイオ燃料をめぐる国際動向,バイオマス白書2008)と、バイオ燃料そのものを断念、もっと効率的な石油燃料節約 策を探ろうではないか提案してこそ、真に世界への貢献になる。

 (注)例えば、米国2007年エネルギー法は、政策的支援対象バイオ燃料を温室効果ガス(GHG)排出量が化石燃料に比べて20%以上少ないものに限定、さらにバイオ燃料生産拡大で誘発される土地利用変化のGHG排出への間接影響(→バイオ燃料→土地利用変化で温暖化ガスが激増 森林等破壊防止規制も無効 新研究,08.2.9)も考慮せねばならないと定めた。欧州委員会は今年1月、やはり政策的支援対象バイオ燃料をGHG排出を35%以上削減でき、「高い生物多様性価値を認められる土地」や「炭素を多量に貯留している土地」から得られた原料で製造されたのではないバイオ燃料に限定する「再生可能資源からのエネルギーの利用に関する」指令案*を提案している。

 *http://ec.europa.eu/energy/climate_actions/doc/2008_res_directive_en.pdf