米国エタノール大手 原料価格高騰で新設工場の生産開始を延期 工場畜産破滅の予兆?

農業情報研究所(WAPIC)

08.6.17

 POET、ADMと並ぶ米国エタノール生産最大手のVeraSun Energy Corporationが16日、米国中西部、ミネソタとアイオワで建設中の二つの工場の操業開始を、市場条件が改善されるまで延期すると発表した。

 二つの工場はそれぞれ1億1000万ガロンの年産能力を持ち、今年後半から生産を始める予定だった。しかし、原料であるトウモロコシの価格の記録的高騰と、ガソリン価格に比べてのエタノール価格の低迷で、エタノール製造が難しくなったという。

 なお、この決定は、トウモロコシ生産に計り知れない影響を及ぼし、シカゴ市場トウモロコシ先物相場を7ドルを越えるまでに押し上げた中西部大洪水とは、直接の関係はないということだ。 同社スポークスマンは、「市場を毎日監視する、これら工場ができるかぎり早くオープンするだろうと非常に楽観的だ」と言う。

 VeraSun delays 220 mln gpy of U.S. ethanol output,Reuters,6.16
 http://uk.reuters.com/article/governmentFilingsNews/idUKN1638854520080616

 ただし、中西部洪水が市場条件を一層悪化させ、エタノール生産をますます困難にするだろうとは容易に予想できる。そして、中西部の今年の大雨は長期的な気候変動を反映したものという見方もある。中西部の年間降水量は、1980年代以来、1970年以前に比べて10%ほど増えている。この増加で、地域の河川の年間流量は2倍に増え、堤防を超えて溢れ出る頻度が増している。70年までの40年には、これは2回だけだったが、次の40年間には12回に増えた。過去、200年間に1回だった出来事が、33年に1回起きると予想される。西部コーンベルトの河川は気候の変化に反応してきた。今後は、今年以上にトウモロコシ収穫量を減らす極端な気象条件が増えるだろうという。

 The Nation’s Wet Spot,Cattle Network,6.16
 http://www.cattlenetwork.com/Beef_Cattle_Hot_Topics_Content.asp?ContentID=229366

 エタノールどころではない。我々に安価で大量の肉・卵・乳製品を提供してきた戦後工場畜産も破滅に向かう恐れがある。戦後米国で安価に大量に生産できるようになったトウモロコシなしでは、このような畜産は成り立たない。そのトウモロコシが、いまや小麦と大して変わらないほどに値上がりしてしまった。1ブッシェルのトウモロコシが8ドル、9ドル、10ドルになる日も遠くないかもしれない。

 なお、米国再生可能燃料協会(RFA)によると、VeraSunの今年6月現在の年生産能力は10億900万ガロンで、合わせて5億5000万ガロンの生産能力の工場を建設中とされている。POET社は12億5300万ガロンの生産能力を持ち、2億8200万ガロンの生産能力を持つ工場を建設中、ADM社は、10億700万ガロンの生産能力を持ち、5億5000万ガロンの生産能力を工場を建設中とされる。この3社の生産能力は、米国のエタノール生産全能力(約89億ガロン)の40%近くに達する。

 http://www.ethanolrfa.org/industry/locations/

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