NZ航空 ヤトロファ燃料で試験飛行 (付)ヤトロファ ”ミラクル”な作物?(FAO)

農業情報研究所(WAPIC)

08.11.14

  ガーディアン紙によると、ボーイングとニュージーランド航空が、一部のエンジンをヤトロファ由来バイオ燃料を混ぜた燃料で動かすジャンボジェットの飛行試験を行うと発表した。12月3日、4つのエンジンのうちの一つがジェット燃料とヤトロファ油を半々混ぜた燃料で動くようにしてオークランドを飛び立つ。

 エア・ニュージーランドのCEは、「このフライトは、世界で最も環境責任を果たすエアラインであろうとする我々の努力を強力に支援する」、「新世代の持続可能な燃料の導入は、燃料を一層節約し、航空機の排気を減らす我々の努力の次の論理的ステップだ」と言う。

 ボーイングは、ヤトロファは、インドや南東部アフリカで食料のために必要とされない限界地で育てられると言う。同社の環境問題専門家は先月、バイオ燃料航空機は、3年以内に何百万もの旅行者を世界中で運ぶことが出来ると語ったそうである。

 Boeing to test biofuel in New ZealandThe Guardian,11.13
 http://www.guardian.co.uk/environment/2008/nov/13/travelandtransport-biofuels

 野心的というより、もはや幻想、妄想とでも言うほかない。しかし、ヤトロファの現実は、何故こうも無視されるのだろうか。それで大もうけを企む(実際には大損となるかもしれないが)英国D1社の話ならまだ分かる(英国D1 Oilsが最初のヤトロファ油 ヤトロファディーゼル実用化への第一歩?,08.10.2)。ボーイングやエア・ニュージーランドが何故これほどまでにヤトロファに肩入れするのか、理解を超えている。

 ヤトロファの現実は次のとおりだ。国連食料農業機関(FAO)の「2008年食料農業白書」からの翻訳で示したおく。

 ヤトロファ ”ミラクル”な作物?

 FAO・2008年食料農業白書第1部第5章(ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/011/i0100e/i0100e05.pdf14−15頁(ボックス11)

 ヤトロファ(Jatropha curcas)はエネルギー作物として知れわたっている。この植物は干ばつに耐え、限界地でもよく育ち、年に300ミリから1000ミリの降水しか必要とせず、定着が容易で、侵食地の修復を助けることができ、成長が速い。これらの特徴は、樹木の被覆や土壌肥沃度の減少を恐れ、食料作物との競合を最小にするエネルギー 作物を求めている多くの途上国を引き付ける。同時に、この小木は、仁の重さの30%の油―既に石鹸、蝋燭、化粧品に使われており、カスターオイルと似た医薬品特性を持ち、調理や発電にも有用な油―を含む種子を2年から5年で産出する。

 北部ラテン/中央アメリカの原生種には、ニカラグア、メキシコ(毒性が無いか、少ない種子として区別される)、カーボベルデの3品種がある。第三の品種はカーボベルデに定着、アフリカとアジアの諸地域に広がった。カーボベルデでは、油抽出、石鹸製造用途でポルトガルに輸出するために大規模に栽培された。ピークの1910年には、ヤトロファの輸出は5,600トンに達した。

 主張されているヤトロファの多くの特長は、油やバイオディーゼルの大規模生産や小規模な農村開発の計画を生み出した。国際的投資家、国内投資家が、ベリーズ、ブラジル、中国、エジプト、エチオピア、ガンビア、ホンジュラス、インド、インドネシア、モザンビーク、ミャンマー、フィリピン、セネガル、タンザニアでのヤトロファ大規模栽培に突進している。最大規模のベンチャーは、20032007年の間に40万fにヤトロファを栽培するインド政府の“ナショナル・ミッション”である。目標は、20012012年までに、1,000万fの荒蕪地で栽培され・年間を通じて500万の雇用を生み出すヤトロファから生産されるバイオディーゼルで、国のディーゼル消費の20%を置き換えることである。[中略]

 この植物は、アフリカでも、しばしば町や村の土地を分ける垣根として、広く育っている。マリでは数千キロメートルの垣根を見ることができる。それは、家畜から庭を護り、風と水による侵食を減らすのに役立つ。種子は既に石鹸製造や医療目的で利用されており、ヤトロファ油は、低速ディーゼルエンジン、発電機、充電器、製粉機などの動力源として、非政府組織により奨励されている。タンザニアやその他のアフリカ諸国では、小規模農村電化プロジェクトのエネルギー源としてヤトロファ油を奨励するパイロットプロジェクトが進行中である。

 多くの国で行われている相当な投資とプロジェクトにもかかわらず、ヤトロファの農学に関する信頼できる科学的データは利用できない。投資の決定が依拠する土壌、気候、作物管理、作物遺伝物質などの変数と収量の関係を立証する文書記録は乏しい。示される収量の大きな差は、土壌肥沃度や水の利用可能性などのパラメーターと関係づけることができない。1991年から1999年まで行われたニカラグアでの実験のような90年代の実験は失敗に終わった。

 実際、ヤトロファに関する多くのポジティブな主張は、成熟したプロジェクトの経験に基づいていないように見える。Jongschaap et al. (2007)は、中小規模のヤトロファ栽培は土壌−水の保全、土壌改良、侵食抑制に役立ち、生垣、薪、緑肥、照明燃料、地方的石鹸生産、殺虫剤、医薬などに利用できると論じている。しかし、彼らは、養分要求(土壌肥沃度)・水利用・労働投入が少なくて油の収量が高い、食料生産との競合はない、病害虫に強いといった主張は科学的証拠による裏づけがないと結論した。最も決定的な欠陥は改良品種と利用可能な種子の欠如である。ヤトロファは、未だ信頼できるパフォーマンスを備えた作物として実証されていない。

 非現実的な期待に基づくヤトロファへの突進は金銭上の損害につながるだけでなく、地方コミュニティの信頼を損なうという恐れには、十分な根拠があるように見える。持続可能なヤトロファ栽培は、生産と販売の不確実性を取り除くことを意味する。適する生殖質と様々な条件の下での収量に関する一層の研究が必要であり、作物の持続可能な開発を促進するためには市場も確立されねばならない。(以上)

 なお、次も参照されたい。

 中国・インドのバイオ燃料生産 食料作物栽培のための水の不足を深刻化 国際水管理研究所,07.11.13