保全休耕地のエタノール用トウモロコシ用地への転換 最悪の温室効果ガス削減策

農業情報研究所(WAPIC)

09.3.9

 米国では、連邦補助金の給付によって休耕を奨励することで風・水食から農地土壌を保護する保全休耕プログラム(CRP)がある。ところが近年、急拡大するバイオエタノール産業の原料作物需要を満たすために、このような休耕地をトウモロコシ畑に戻す動きが広がっている(米国農家 作物価格高騰で保全休耕地を耕作地に 09年までに日本の水田総面積分,08.4.5)。

 しかし、温室効果ガス(GHG)排出削減のためには、バイオ燃料用トウモロコシ生産のために保全休耕地を耕すよりも、休耕地を耕さないままに維持することが大切だ、トウモロコシエタノール生産のために休耕地を耕地に転換することは非効率で高価な温室効果ガス削減策であり、スイッチグラスなどを原料とするエタノール生産が商業的に可能になるまでは奨励されてはならない、このように主張する新たな研究が現れた。デューク大学の生物学者:ロバート・ジャクソン教授が率い、アメリカ生態学学会(ESA)のEcological Applications誌最新号に発表された研究*がそれである。

 *Robert B. Jackson et al.,Set-asides can be better climate investment than corn ethanol,Ecological Applications,Vol. 19, No. 2, pp. 277-282;doi: 10.1890/08-0645.1
 full text:http://www.esajournals.org/doi/full/10.1890/08-0645.1

  これら研究者によると、トウモロコシエタノールが化石燃料に取って代わることでGHG排出を減らすことを示す様々な研究があるけれども、これらの多くの研究は、土地利用の変化が土壌の炭素含有量の変化を通してどれほど炭素収支に影響を与えるかを見落としている。

 研究者は、保全休耕地化(1994年、2008年)、保全休耕地のトウモロコシ栽培用地化、草地のトウモロコシ栽培用地化という土地利用転換でその後の土壌炭素貯蔵量がどう変わるかを計算した。また、これらの土地利用転換、炭素損失のない農地からのトウモロコシエタノール生産、バイオマスがセルロースエタノール生産に利用される保全休耕地からのGHG排出がどれほど削減できるかも計算した(図参照)。

 142の異なる土壌を分析したこの研究によると、通常のトウモロコシ栽培は土壌に貯えられた炭素の30%から50%を取り去る。対照的に、生長に応じて草を刈り取るだけのセルロースからのエタノール生産は、土壌炭素レベルを減らすことなく、最終的には30%から50%増やすことができる。一度生えたスイッチグラスは、その20年の生涯の間、トウモロコシ生産に比べればはるかに少ないエネルギーしか必要とせず、二酸化炭素排出もずっと少ない。

 休耕によって自然植生に戻すのが最善のGHG排出削減策で、その削減効果は48年にわたってトウモロコシエタノールによる削減効果を上回る。ただし、休耕地草地で生産されるセルロースエタノールが商業的に利用可能となったときには、これが最善のGHG排出削減策になる[ただし、これはコーネル大学チームにより余りに楽観的と評価されたスイッチグラスに関するTilman 等のデータに基づいている→バイオ燃料で化石エネルギー消費が却って増える コーネル大学の新研究,09.1.30]。

 そして、以前の休耕地にエタノール用トウモロコシを栽培するのは、最悪のGHG排出削減策となる。これは大量の土壌炭素を大気中に逃すことになるという。

Fig. 1. (A) Changes in soil carbon stocks and (B) net reductions in greenhouse gas (GHG) emissions under different land-use conversions; negative values indicate net emissions. The land-use changes presented here are Conservation Reserve Program (CRP) land withdrawn from cultivation in 1994; new CRP withdrawals from continuous cultivation in 2008; a CRP land withdrawn from cultivation in 1994 and returned to corn production in 2008; and the conversion of native grasslands to corn in 2008. In addition, we evaluated net reductions in GHG emissions from corn ethanol production starting from agricultural (“Ag”) land with no loss of soil carbon and a CRP grassland where biomass is used for ethanol production via cellulosic digestion.