農業情報研究所環境エネルギーニュース:2010年12月24日

欧州委 バイオ燃料関連の間接的土地利用変化に関する報告

 欧州委員会が12月22日、2010年中に欧州議会および閣僚理事会(EUの決定機関)に対して提出することを義務づけられていたバイオ燃料に関連した間接的土地利用変化に関する報告を発表した。

 http://ec.europa.eu/energy/renewables/studies/land_use_change_en.htm

 EU再生可能エネルギー促進指令(2009/28)は、2020年には輸送用燃料の最低10%をバイオ燃料を含む再生可能なエネルギーとすることをEU各国に義務づけた。また、この指令と燃料品質指令(2009/30)は、持続可能なバイオ燃料生産の基準(EU再生可能エネルギー利用促進指令のバイオ燃料持続可能性基準(仮訳),)と、この基準に合致することを検証するための手続きを定めた。

 しかし、バイオ燃料生産の増加はEUにおける農業生産の増加と世界的規模での間接的土地利用変化の引き金となる恐れがある。化石燃料からバイオ燃料への転換は、特にEUのバイオ燃料またはバイオ燃料原料 の輸入増加やEUの食料作物輸出の減少の結果としての世界的土地利用変化を考慮すれば、予想されるような温室効果ガス(GHG)の削減につながらない、却って増加させることさえあり得るといった激しい議論が巻き起こった。

 バイオ燃料促進にあたっては、その土地利用への間接的影響がアセスされねばならない。こうして、再生可能エネルギー促進指令は、「欧州委員会は、2010 年12 月31 日までに、間接的土地利用変化のGHG 排出への影響を見直し、この影響を最小限にする方法に取り組む報告を欧州議会と理事会に提出せねばならない。この報告は最善の利用可能な科学的証拠に基づき、間接的土地利用変化が引き起こす炭素ストックの変化からの排出に関する具体的方法を含み、本指令、特に第17 条第2項の遵守を確保する」と定めたのである。 

 報告は、指令のこの要請に応えるものである。一般均衡モデル研究に基づく最終報告 の中心的結論は、2020年に達成すべき道路輸送燃料中の再生可能燃料のシェア:10%のうち、農作物由来の”第一世代バイオ燃料”のシェアを5.6%以内にとどめることができるならば、すなわち、指令が定めたように、残りの40%が再生可能資源から生産される電気や水素エネルギー、廃棄物・リグノセルロース質バイオマスなどからの”第二世代バイオ燃料”(これは1%が2%としてカウントされる)で賄われるかぎり(EU、バイオ燃料の持続可能性確保で欧州議会案から大きく後退,08.12.11)、間接的土地利用変化(ILUC)によるCO2の追加排出を考慮しても、バイオ燃料はCO2排出削減に役立つというものである。

 この場合、必要になるバイオディーゼルの増産はEU域内で実現され、バイオエタノールの増産はブラジルで行われる(この研究では、2020年のバイオ燃料の構成比はバイオディーゼル45%、バイオエタノール55%と仮定されている)。これは、EUのバイオエタノール輸入が大きく増加することを意味する。これにより、世界の作物地は0.07%増加する。これは、EUバイオ燃料指令に関連したILUCが確かに存在することを示す。ただ、大部分はブラジルで起きるILUC由来のCO2追加排出は530万トンで、バイオ燃料による直接的なCO2排出削減量は1880万トンと推定されるから、ILUCの影響を差し引いても20年で1300万トンの削減になるという。

 多角的・二国間貿易自由化(関税廃止)のシナリオでも結果は同様である。EU域外、特にブラジルでの農地拡大でILUCの影響は多少は増えるが、排出が比較的少ないブラジルのサトウキビ由来のバイオ燃料の利用が増えることで、全体的には排出が減る。

 ただ、これは、EUで消費されるバイオ燃料中のエタノールのシェアが現在の19%から2020年までに45%に増えることを仮定している。45%対55%の仮定は、結果に重大な影響を及ぼすだけに、一層の考究が重要だという。また、EU27ヵ国のデータの質の全面的改善も決定的に重要だ。さらに、持続可能性基準のバイオ燃料市場への影響にも大きな不確実性が残る。これに関する一層の経験的研究が必要だ。

 同時に発表された次の二つの研究は、バイオ燃料の土地利用変化とその温室効果ガス排出への影響の評価の不確実性の克服がいかに難しいかを示している。

 The Impact of Land Use Change on Greenhouse Gas Emissions From Biofuels and Bioliquids
 http://ec.europa.eu/energy/renewables/studies/doc/land_use_change/study_3_land_use_change_literature_review_final_30_7_10.pdf
 Indirect Land Use Change from Increased Biofuels Demand
 http://ec.europa.eu/energy/renewables/studies/doc/land_use_change/study_4_iluc_modelling_comparison.pdf

 この莫大な研究が明らかにした確かなことと言えば、決して無視はできないILUCが存在するということだけではなかろうjか。

 モデル計算に基づくこの種のアセスメントは、しばしば、現場を見れば明らかな影響を覆い隠し、既存政策の正当性を主張するための、「科学」に見せかけたアセスメントに 終わる。真実を把握するためには、アフリカの大地を蹂躙する”ランドラッシュ”の実態をつぶさに見ることだ。 それだけでも、10%目標を取り下げる十分な理由を提供するだろう。

 ところで、欧州委員会はこれに基づき、2011年7月までに、この問題を扱うためのあり得る政策的アプローチを詳細にアセス、適切と判断したときには、先の二つの指令を改めるための立法提案も行うという。

 そして、次のような政策的選択肢が考えられるということだ。

 ・しばらくは監視を続け、特別の行動はとらない。

 ・GHGの最低削減率(現在は35%)を引き上げる。

 ・一定種類のバイオ燃料について持続可能性要件を追加する。

 ・推定された間接的土地利用変化をバイオ燃料のGHG排出量に反映させる。

 Biofuels: Commission adopts Report on indirect land use change,European Commission,10.12.22
 http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/10/1772&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en