太陽や風は決して請求書をよこさない」(ドイツ外相)は本当か?増え続ける日本太陽光の請求書

農業情報研究所環境エネルギーニュース:2016年10月29日

  脱原発政策を進めるドイツのシュタインマイヤー外相が東京新聞に寄稿した。原発の「高い潜在リスク」を指摘、再生可能エネルギーへの転換を訴え、温室効果ガス削減に向けた「新たな道」を共に切り開いていくよう、日本に呼び掛けている。寄稿文のタイトルは「世界規模のエネルギーシフト(転換)-太陽や風は決して請求書をよこさない-」だという。

 太陽や風は決して請求書をよこさない独シュタインマイヤー外相 本紙寄稿 東京新聞 16.10.29 朝刊

 ところで、「太陽や風は決して請求書をよこさない」とはどういう意味なのでしょうか。

 ドイツがエネルギーシフトの取り組む理由の第一に挙げられるのは、「持続可能性に配慮しないエネルギー供給の国際的なコストは甚大」ということです。この国際的コストとは、「不均衡でしばしば不安定化する化石燃料の輸入、原子力エネルギーの想定不可能で高い潜在リスク、そして従来型エネルギー製造に伴う大量の温室効果ガス排出」 であり、「これら全ては再生可能エネルギーによって削減または回避することができます」と言っていることからすると、「太陽や風」はここに言う「再生可能エネルギー」を代表する太陽光発電や風力発電が生み出すエネルギーを指し、それが「請求書をよこさない」ということは、それは「持続可能性に配慮しないエネルギー供給」がもたらすような甚大な国際的コストを減らすか、生まないということでしょう。

 2050年目標 エネルギー消費半減 独シュタインマイヤー外相寄稿全文 東京新聞 16.10.29 第2

 同紙が同日掲載したドイツ・オスナブッシェルリュック市(人口約16万5000)における太陽光普及に関する記事(独・オスナブリュック市 「太陽光」普及へ 各戸の利益計算 情報提供 欧州自治体に広がる 東京新聞 16.10.29 第9)を見るかぎり、確かにそうかもしれないと首肯することができる。

 ここでの太陽光発電は、すべて住宅の屋根に取り付けられたソーラーパネルで行われ(ているようであり)、各戸、固定買い取り価格による売電収入が保証されている。2015年にパネル設置世帯が1000を越えた。50年に全電力を再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げる市は、約2万6000世帯への普及を目指しているという。(注)

 しかるに、日本の太陽光発電は専ら営利目的の投資の対象となり、広大な山野を削り取ったメガソーラーが国中に乱立している(メガソーラーと環境・自然破壊日本全国の太陽光発電所一覧地図・ランキング)。それによる生態系破壊で日本列島は災害列島と化し、温室効果ガスの吸収源である山野も温室効果ガス排出源に変わる。太陽光の「請求書」は増えるばかりである。

 来月2日、赤坂のドイツ文化会館で「日独シンポジウム 温暖化対策と地方創生」が開かれる。ドイツ外相の寄稿に関連したドイツのエネルギーシフトや日本との協力を考えるという。日本の太陽光発電の現状に鑑み、どうしたら「持続可能性に配慮しないたエネルギー供給」を排除できるのか、それにも考えを巡らせてもらいたい。

 (注)ドイツにおいても、太陽光発電設備のすべてをこのような個人が所有しているわけではない。しかし、「ドイツでは個人と農家の所有する再生可能エネルギー発電設備の割合が、全設備容量(出力)の過半数に達している。電力会社や産業界の所有する設備は合わせて4分の1程度に過ぎない。・・・いわゆるメガソーラーに相当する出力500kW以上の大規模太陽光発電設備に限定しても、個人および農家の割合が28%を占めている」が、日本のメガソーラー事業の主体の半数は情報通信・太陽電池・金融大企業であり、個人・農家はもとより、「地方創生」に直結する「公共団体や協同組合による事業」もはごくわずかという研究がある(日本におけるメガソーラー事業の現状と課題 一橋経済学 7(2): 1-20 20141月31日。ドイツと日本の違いは明らかだ。