津波報道に隠された鳥インフルエンザの脅威 ベトナムで3週間に9人が死亡

農業情報研究所

05.1.24

 津波報道の陰にすっかり隠れてしまっているが、鳥インフルエンザがもたらす人々の健康への脅威が日に日に高まっている。今年に入り再流行の兆しを見せていたベトナムにおけるH5N1型高病原性鳥インフルエンザは、既に全国的蔓延の様相を呈している。タイでも先週、4県で再発が確認された。感染は人にも及んでいる。H5N1ウィルスによるベトナムの死者はこの3週間で9人にのぼった。先週、タイで感染を疑われた1名は別の病気と診断されたが、去年(01年1月28日)以来、このウィルスへの感染が確認された人は、ベトナムで37人、タイで17人の計54人、うち死者は29人+12人=41人で、致死率は76%にも達する。

 世界保健機関(WHO)が最も恐れてきたのは、このウィルスが人から人に拡散するように変身することだ。そうなればたちまち世界的に蔓延、何百万人もの人々を死に至らしめると警告した。いまところ人から人への感染は確認されていない。しかし、人の感染(感染した鳥への接触による感染)が増えれば増えるほどウィルス変身の機会も増える。1月9日に亡くなった46歳の男性の犠牲者はについては、彼を看護していた42歳の弟の感染が確認され、兄からの直接感染の可能性も疑われている(WHO:Avian influenza ? situation in Viet Nam ? update 5,1.21)。WHOは、ベトナムにおける相次ぐ人の感染に、ウィルス変身は時間の問題と危機感を募らせている。

 先週の新たな3人の死を受けて、WHOは、非常に高い致死率と、それがどのように伝播するかをめぐる決定的問題に答える研究の欠如に懸念を表明した。タイのWilliam Aldis・WHO代表は、「我々は、津波よりもはるかに大きな公衆衛生上のインプリケーションをもち得る鳥インフルエンザの脅威を忘れたり、制しきれなくならないように、非常に用心深くしてきた」と語っている(Bird flu could become a global pandemic: WHO,Globe and Mail,1.21)。

 NewScientistの21日の記事(Suspected human-to-human bird flu transmission in Vietnam)によると、先のベトナムの兄弟については、その後、さらに3人目の弟も感染が判明、長兄が病気になる一週間前に家族でアヒルを殺し、食べていたと情報もあり、必ずしも人から人への感染が確認されることにはならないかもしれない。しかし、この記事は、診断の難しさにより多くの鳥インフルエンザ感染が見逃されている恐れを指摘、人間の感染が想像以上に広がっているかもしれないと警告する。

 この記事によると、死んだ長兄は2度の検査で鳥インフルエンザではないと診断された。ところが、その後発病した弟を検査すると鳥インフルエンザ陽性となった。そこで兄について再検査(三度目の検査)すると陽性になった。弟の発病がなければ、鳥インフルエンザと診断されることはなかったことになる。また、タイの児童保健研究所チームの研究が、タイで陰性と診断されたH5N1を疑われるケースの5分の1は検査のために採取される痰のサンプルが「不適切」であったことを明らかにし、鳥のH5N1ウィルスが東アジア全体に広がっているのに人間の感染が僅かな数しか報告されていないのは、一般の肺炎との区別が難しく、また病気特定のための診断テストが広く利用できないからだと結論したという。

 もしそうだとすると、ウィルス変身の機会はますます増えることになる。昨年12月、WHOは、ウィルスが変身した場合、最善の場合でも200万人から700万人、最悪の場合には5億人以上の死者が出るという予想を発表、ワクチン・抗ウィルス薬備蓄などの早急な対応を各国に呼びかけた(Estimating the impact of the next influenza pandemic: enhancing preparedness)。各国の努力は始まっている。だが、ギアを入れ換えないと、時間の勝負にはとても勝てそうにない。

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