ベトナム 家禽産業工業化を目指す鳥インフルエンザ対策プロジェクトを提案

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.13

 ベトナム農業・農村開発省(MARD)が、鳥インフルエンザのコントロールのために、2006年から15年にかけて養禽・と殺・加工産業を刷新するプロジェクトを政府に提出した。刷新プロジェクトは、国の家禽の75%から80%が小規模に飼育されているから、大規模養禽と加工・と殺施設の工場化に焦点を置き、産業は回復局面にあるからと養禽部門の大幅拡大(2010年までに13億米ドル)を目指す。このプロジェクトは、消費者に安全な家禽製品を提供するために、加工・と殺施設の更新や安全で衛生的な施設の設置も目指す。現在、地方町村のと殺場の80%までは安全・衛生基準を満たしていないという。

 Agriculture ministry sends poultry industry overhaul proposal to gov’t,VietNam.News,3.11
 http://vietnamnews.vnanet.vn/showarticle.php?num=02AGR110306

 養禽産業振興のために養禽農民に特恵銀行貸付が提供されるとともに、小規模養禽農民は、2年以内に他の作物や家畜に転換するための最大900米ドルまでの無利子融資の対象にも選ばれる。新たなと殺場、加工施設、養鶏農場を建設し、また飼料工場の更新を図る投資家のために、投資と土地リースを刺激する財政援助も提供される。MARDは、養禽産業刷新のために政府が2006-07年に5160万米ドルの資金供給を承認することを提案している。

 この提案は、鳥インフルエンザを有効にコントロールするための措置を今後数ヵ月続けること議論するホーチミン市家畜保健・農業当局者との会合を受けて出された。ホーチミン市の鳥インフルエンザ予防・コントロール常設委員会は、2007年2月28日まで家禽飼育を停止させる措置を続けることを許容するように要求したきた[ホーチミンとハノイの農民は、昨年11月、鳥インフルエンザ拡散を防止するために、すべての家禽の飼育を禁止された→鳥インフルエンザ 中国が全家禽にワクチン接種 ベトナムは2大都市の全家禽処分を計画,05.11.16)。この会合では、家庭が非衛生的な条件での家禽飼育を再び始めており、ワクチン接種も行われていないことが明らかにされた。また、小規模飼育での鳥インフルエンザ渦からの回復は、家畜保健専門家の監督が難しいために極度に難しいという声も上がったという。

 市人民委員会は、家庭で家禽を飼育する農民が養鶏場を隣県に移すことを奨励する規則を発布、また養禽から他の活動に転換する人々に財政援助を与えてきたという。

 しかし、このような措置は、有効な養禽産業再建策につながるのだろうか。先に紹介したカナダのNGO・Grainのレポート(鳥インフルエンザ危機の根源は工業養鶏、野鳥や庭先養鶏ではないーカナダNGOの新研究,06.2.27)は次のように言う。

 「多様化された養禽産業に対するFAOの長期にわたって続いた支持に何が起きたのか。FAOは、突如として、小規模養禽のリスクから家禽生産の工業化(すなわち”畜産革命”)を護ることに心を奪われた。それは、より少数で大規模な生産を伴う一層集中された市場・インフラストラクチャーが集中できる家禽生産地区・国内輸出地域のマイナーな鳥インフルエンザ勃発が輸出に影響を与えないように配置された輸出国の地域・都市郊外に移動した生きた家禽の市場をもち、すべての家禽がフェンスと屋内に閉じ込められたアジアの将来の再建家禽産業について公然と語り始めさえした。

 これは、アジアの小規模家禽農場の死である。FAOは、べトナムだけでも、”生産地区”の実施が100万の小規模商業生産者の所得喪失を生むと認めている。不幸にして、大部分の政府がこのような再編を受け入れることに余りに熱心である。

 以前のFAOの立場は違った。FAOアジア太平洋事務所の上級家畜保健・生産事務官・ハンス・ワグナーは、”[アジアの食肉に対する]需要急増の主要な受益者は、大規模な、都市の、資本集約的な生産者・加工業者と都市の中上流階層の消費者だ。圧倒的多数の貧者には利益はない”と言っていた」。

 新たなプロジェクトは、「圧倒的多数の貧者」から重要な生計の糧を奪うことになるだろう。それだけではない。ベトナムでは、昨年10月15日以来12月15日まで続いたH5N1鳥インフルエンザの勃発で370万を超える家禽が殺処分された。以後3ヵ月近く、新たな勃発の報告はない。しかし、ウィルスを撲滅したという保証はない。なお勃発が続く中国等外国からの侵入もあり得る。大規模化はさらなる大規模な勃発を引き起こす恐れがある。

 Grainの先のレポートは、「ラオスの経験は、裏庭の家禽や人々を鳥インフルエンザから護る基本は工業的な家禽や家禽生産から護ることであることを示唆している。これは工場的農場が少なく、外部からの投入もほとんどなく、基本的にローカルな食料システムをもつラオスのような国で比較的容易に実行できる」と言う。ベトナムは、敢えて反対の方向ー大規模勃発が止まらず、それを抑えることも極めて難しくなっている中国やインドネシアと同じ方向ーに踏み出そうとしている。これは 国際機関、専門家に後押しされた抑えがたい世界の潮流でもある。今や、その結果が新型インフルエンザ・パンデミックにつながらないことを祈るしかないのだろうか。