中国の劇症豚レンサ球菌病の原因は変異したバクテリアの可能性ー新研究

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.12

 昨年8月に中国で発生した豚レンサ球菌による類例のない病気(*)が変異したバクテリアによるものではないかと示唆する研究が発表された(**)。遺伝子変異が以前からある豚レンサ球菌病の致死率を高めた可能性が高いという。

 豚レンサ球菌は世界中の豚に発見されるが人が感染することは稀、豚との緊密な接触がある農民等がたまたま感染するだけで、人から人への感染は確認されていない。1968年以来昨年末までの人の感染は200例を数えるだけで、死亡率も10%に達しなかった。

 ところが、昨年、主に四川省で発生したこの病気に200人以上が感染、そのおよそ5人に1人近くが死んだ。その症状についても、皮下出血、毒素性ショック、昏睡など、以前に見られた髄[脳]膜炎や敗血症の症状とは異なる劇症も現れた。さらに、大部分の豚レンサ球菌病には抗菌剤で治療できたが、この場合には抗菌剤治療は難しかった。他の類似の勃発例としては、25人が感染、うち14人の死が報告されたやはり中国・江 蘇 省の1998年の例があるだけだ。

 しかし、何故このような病気が発生したのか、研究者の間でもなお謎にとどまっている。新たな研究は、中国の二つの勃発例の患者から分離したバクテリアの遺伝子配列を解読、他の勃発例の豚レンサ球菌の株のそれと比較した。中国の株は他の株に見られなかった遺伝子を持っていたという。研究者は、遺伝的違いと中国における高い致死率の間の直接的関連の証拠はまだないが、その可能性は非常に高いと言う。パンデミック(世界的流行病)となる可能性もあると恐れる。

 この論文に付随する別の論文(***)は、人々に感染でき、殺す可能性のある新たな動物病の出現が世界的に懸念されており、国際社会は、世界の各地に広がるバクテリアの株の間の違いを確認するために協同せねばならないと言う。

 *WHO 中国の豚由来の謎の病気で初めて公式発表 病原体の一層の特徴づけが重要,05.8.4;WHO、中国四川の奇病で最新発表 豚レンサ球菌病因論の有効性を確認,05.8.20:中国広東省で4人が豚レンサ球菌病に 一人が死亡 豚の病気の報告はなし,05.8.23

 **Jiaqi Tang et al,Streptococcal Toxic Shock Syndrome Caused by Streptococcus suis Serotype 2,PLoS Medicine,Volume 3 | Issue 5 | MAY 2006.
     http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10%2E1371%2Fjournal%2Epmed%2E0030151

  ***Shiranee Sriskandan and Josh D. Slater,Invasive Disease and Toxic Shock due to Zoonotic Streptococcus suis: An Emerging Infection in the East?,PLoS Medicine,Volume 3 | Issue 5 | MAY 2006.
    http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10%2E1371%2Fjournal%2Epmed%2E0030187