アマゾン森林破壊の最大要因は牛飼育、EUの牛肉需要が破壊を加速

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.3

 アマゾンの森林破壊が急速に進んでいる。その最大の要因は、米国を抜いて世界一の生産・輸出国に踊り出ようとしているブラジルの大豆生産拡大ではないかと言われてきた(⇒ブラジル:大豆がアマゾンを呑み尽くす―営利主義がもたらす環境破壊,03.12.20)。だが、インドネシア・ボゴールに本拠を置く国際林業研究センター(CIFOR)が、最近では大豆生産拡大がアマゾン破壊の大きな要因になってきたのは確かだが、大豆生産のアマゾン侵入による破壊の比率は未だ低い、最大の要因は牛を飼育する大牧場の侵略だという新たな研究報告を出した(*)。それは、牛牧場のアマゾン侵略を促したのは、BSEの影響を受けたヨーロッパ諸国のブラジル牛肉輸入の急増であり、その背後にはヨーロッパのスーパーマーケットに関連した「ハンバーガー・コネコネクション」があることを示唆している。また、ブラジルの口蹄疫からの解放による牛肉輸出拡大の可能性と、米国・カナダのBSE、アジアの鳥インフルエンザによるブラジル牛肉需要の増大の可能性は、アマゾン破壊をさらに加速するだろうと予測、ブラジル政府と国際協力による森林破壊防止対策の強化を勧告している。報告の概要は次のとおりである。

 アマゾンの森林破壊

 ブラジル・アマゾンの森林破壊累積面積は90年の4千150万haから00年の5千870万ha(ポルトガルまたはウルグアイの面積に相当)に増加した。年々の森林破壊面積は94-95年にピークに達した後減少に転じたが、97-98年から再び増加に転じ、02年には急増、ブラジル政府の国立宇宙研究所(INPE)の推定では、03年には250万haとピーク時に迫っている。

 牛と森林破壊

 利用できる最新のセンサスの数字(95-96年)では、森林喪失面積の圧倒的部分は牧場となっている。作物用地560万8千haに対し、牧場面積3千357万9千haだった。96年以来、このパターンが変化したことを示唆する材料はない。

 最近数年については、大豆生産拡大への懸念を正当化する材料もあるが、全体の破壊面積に対する比率は未だ小さい。02年、法律上のアマゾン地域における大豆面積は490万haで、牧場面積はその10倍になる。その上、大豆面積の多くは、長年にわたり破壊されてきた中西部・マット・グロッソのサバンナ地域にあり、新たに開墾された面積の比率は小さい。

 伐採が森林破壊につながることは滅多にない。伐採される面積当たり樹木数は小さく、火災の誘発や農民の森林地域への移動の容易化といった間接的な形で森林破壊に寄与するだけである。伐採による森林破壊は、牛飼育の増加による破壊よりずっと少ない。

 アマゾンの牛の数の増加

 牛の増加は最近12年間の現象。90年の2千600万頭(ブラジル全体の17.8%)が02年には5千700万頭(同、約3分の1)に倍増した。この増加数は、この間のブラジルの家畜増加数の80%を占める。新しい牛の圧倒的多数は、02年の森林破壊が最大であったマット・グロッソと北部のパラー、ロンドニアに集中している。

 牛肉輸出:ハンバーガー・コネクション

 80年代に戻ると、有名な環境保護論者・ノーマン・マイヤーが「ハンバーガー・コネクション」の言葉を造った。それは、中央アメリカから米国のファスト・フードチェーンへの牛肉輸出がいかに森林破壊を引き起こしているかを記す言葉だったが、当時のブラジルには当てはまらない。ブラジルは牛肉をほとんど輸出しておらず、アマゾンで生産される牛肉は地域内部で消費されていた。

 アマゾン地域は、91年まで、牛肉を十分に自給することもできなかった。地域が国内市場に牛肉を供給し始めた後にも、ブラジルの牛肉輸出の役割は小さかった。ブラジルの牛肉消費は、72年から97年の間に4倍に増えたが、多くは都市の所得増加がもたらしたもので、この間の一人当たり牛肉消費は倍増した。

 95年には5億ドルを輸出しただけだったが、03年には15億ドルを輸出、たった8年で輸出は3倍に増えた。輸出量は、97年には23万2千トンだったが、03年には5倍以上の120万トンに増えた。

 何がブラジル牛肉輸出を追い立てたか

 平価切下げ

 一つの大きな要因は、平価切り下げ。98年の1.2レアル/ドルから02年の3.6レアル/ドルへ。その結果、レアルでの牛肉価格はこの間に倍増、牧場拡張の巨大な刺激要因となった。最近の研究では、ブラジル通貨の40%の切り下げは、森林破壊を20%増加させる。

 家畜病の趨勢

 ブラジルには口蹄疫が長年にわたり存在、牛肉輸出が妨げられてきた。98年より前、口蹄疫清浄州はひとつもなかった。98年に南部のリオ・グランデ・ド・スールとサンタ・カタリナの2州が清浄州となった。以来、清浄州が急拡大、03年には清浄地域内の牛郡が85%がを占めるまでになった。

 これがヨーロッパ、ロシア、中東の新市場へのアクセスの獲得を助けた。90年から01年の間に、ヨーロッパのブラジルからの加工肉輸入の比率は、40%から74%に増大した。EU諸国はブラジルの輸出牛肉の40%を輸入している。

 03年にマット・グロッソ、ロンドニア、トカンチンスが口蹄疫清浄を宣言、これらの州は地域の牛郡の60%を持つ。05年までには、国全体が口蹄疫清浄を宣言する見込み。これらの変化がアマゾンの牛肉価格を上昇させ、森林破壊の刺激要因になった。

 米国とカナダでのBSE、アジアでの鳥インフルエンザで、一部消費者はブラジル牛肉に転換する。

 アマゾンのその他の変化

 地域の道路と電気のネットワークの急速な拡張と近代的な新たな屠畜場・食肉加工場・酪農工場への大規模投資()。アマゾンの土地が非常に安いことも牛飼育を儲かるものにしている。この土地の安さの一因は、訴えられることなく政府所有地を違法に占拠すること、現在法律で許されている林地の20%の限度をはるかに超えて開拓することが容易にできることにある。

 何をなすべきか

 ルーラ大統領は3月15日、「法的アマゾンの森林破壊防止・抑制のための行動計画」を発表した。この行動計画は、森林破壊を減らすための活動におよそ3億9千400万ドルの政府支出を約束する。これらの活動には、土地利用計画、森林破壊と政府所有地の違法占拠に関係する法の執行の強化、森林破壊監視、公的インフラストラクチャー投資の見直し、先住民領土と共同体林業への支援、持続可能な農業への支援、牧場主への貸付のコントロールの強化が含まれる。

 政府のアプローチは正しい方向への前進だが、森林破壊問題に有効に挑戦するためのいかなる戦略も、一層の資金、関係省庁間の協力、定期的な高レベルの注意はもちろん、多くの追加措置を必要とする。森林破壊に駆り立てる現在の国際・国内市場の力はかつてなく強まっている。断固とした政策的対応をもってしても、森林破壊の決定的抑制は困難である。巨大な努力が必要だ。緊急行動が取られなければ、ブラジル・アマゾンは、来るべき18ヵ月の間に、恐らくデンマークの面積に匹敵する面積を失うことになろう。

 勧告

1.土地略奪を停止させること。新行動計画において土地保有規制に政府が焦点を当てることは完全に正当化される。この分野での進歩には、牧場主に政府所有地を占拠させないための多大な政治的意志、適切なレベルの資金、一層有効な制度的メカニズムが必要になる。

2.既に開発された地域以外での道路プロジェクトを制限すること。新たなインフラストラクチャーの計画、特に道路建設・改良プロジェクトは修正されるか、廃止することが必要である。森林破壊の研究は、道路の決定的役割だけでなく、道路に近い場所での土地投機と森林破壊の抑制措置の実施困難も強調している。

3.政府所有地を「国有林」として登録すること。このために、政府は牧場に転換される最大の危険に直面する森林地域を優先すべきである。

4.土地を森林として維持するための経済的インセンティブを提供すること。ブラジルは、既に一層集約的で、環境に優しい農業を促進するための小規模補償プログラム(PROAMBIENTE)を持っているが、森林保全のための直接支払いを実験すべきである。

 森林破壊を有効に減らすのに必要な措置の実施には、ブラジル政府が今までに約束できた以上の財源が必要である。不幸なことに、ブラジル経済の現在の後退を考えると、政府がアマゾンを救うのに必要なレベルの財源を配分することは難しい。国際社会は、ブラジル政府の努力を追加支援する用意をしなければならない。

 日本の消費者は、牛肉消費がアマゾン破壊を加速するなどと考えたことがあるだろうか。大量の鶏肉消費が、工場養鶏廃棄物による救いのない環境汚染を招いていることを考えたことがあるだろうか。

 なお、報告には、次の図・表が付されている。直接確かめられたい。

 図1 ブラジルの法的アマゾン地域

 図2 ブラジル・アマゾンの年々の森林破壊率(77/88平均、88/89年以後01/02年までの年々の数字)

 図3 77-04年のブラジル牛肉生産・消費・輸出の成長

 図4 ブラジルの牛肉価格、95-03年(レアル、ドル)

 図5a 州レベルでの森林破壊(95-01年)と牛郡規模(90-02年)の増加(相関図)

 図5b 市町村レベルでの01年までの累積森林破壊と02年の牛郡規模(相関図)

 図6 市町村レベルでの01年までの累積森林破壊

 図7 市町村レベルでの02年の牛郡規模

 図8 98年以来の口蹄疫清浄区域の変化

 表1 ブラジル全牛郡に対するブラジル・アマゾン牛郡の比率(90-02年)

 表2 州別牛郡規模

 表3 ブラジルの牛肉輸出(主要相手国別)

 (注)英国のガーディアン紙は、報告の著者の一人が「70年代と80年代には、アマゾンの肉の大部分は地方の屠畜場に販売する牧場主により生産されていた。今や、スーパーマーケットに結び付いた非常に大規模な商業的牧場主がブラジル世界市場の全体をターゲットにしている」と語ったと報じている。また、同紙は、「報告は、ヨーロッパのスーパーマーケットに結び付いた巨大飼育事業が牛肉輸出市場を支配している」と書いている(Demand for beef speeds destruction of Amazon forest,The Guardian,4.2

 *Hamburger Connection Fuels Amazon Destruction
  MEDIA RELEASE( 2 April, 2004):World Appetite for Beef Making Mincemeat Out of Brazilian Rainforest According to Report from Major International Forest Research Center

 農業情報研究所(WAPIC)

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