農業情報研究所環境森林ニュース:2012年6月6

ブラジル大統領 森林法典修正拒否だが アマゾン森林の運命を決めるのは世界食料需要 

 過日、ブラジル議会下院がアマゾン熱帯雨林破壊を加速しかねない森林法典修正法案を採択したと伝えたが(アマゾン森林破壊促進法”がブラジル議会を通過 大統領は拒否権行使か?)、5月28日、ジルマ・ルセフ大統領がこれに拒否権を発動、大統領(政府)自身の森林法典修正案を発表した。大統領は、2008年7月以前に行われたすべての違法伐採に特赦を与えるという条項など、下院法案の多くの条項を取り除くとともに、それによって生じるる空隙を埋めるための大統領令を発した。

 修正法典でも、沿岸地域では所有地の20%、アマゾンでは所有地の80%を森林として維持しなければならないという土地所有者の義務は維持される。大統領は、違法に伐採された森林を回復させねばならないという下院法案が廃止した土地所有者の義務を回復させた。ただし、小規模所有者についてはこの義務を免除する例外も認めた。

 河(水路)岸については、法典は水路の規模に応じて30メートルから500メートルの幅の森林の維持を義務づけていたが、下院案も大統領案も、この幅を5−100メートルに縮めた[多分、これでは沿岸浸食が進むのを避けれらないだろう]。両法案では、急傾斜地の保護の義務は廃止され、土地所有者の森林回復の義務も、ユーカリやオイルパーム(油椰子)のような外来樹植林で満たすことが許される。

 議会は上院、下院とも、9月までに、単純多数決で大統領拒否権を覆すことができる。ただ、現状では、下院はともかく、上院ではこれは難しそうだという。しかし、多くの環境団体は、大統領が下院法案の全面拒否ではなく、部分拒否にとどまったことに不満を表明しているということだ。

 President Rousseff vetoes some controversial changes to Brazil's Forest Code,Mongabay.com,12.5.29
 
President prunes forest reforms,Nature News,6.4

 ただ、法はどうであれ、アマゾン森林破壊の監視と取り締まりは、現実には簡単なことではない。アマゾンで産する資源・食料に対する世界の需要が増え続けるかぎり、アマゾン森林破壊は止まらないだろう。とりわけ、世界の農業生産拡大能力の42%がラテンアメリカにあるという(Latin America holds 42% of the world’s agriculture expansion potential,Merco Press,6.4)。世界食料需要の増大はアマゾン森林破壊を止め難いものにする。

 先日も述べたように、「持続可能な農業に転換し・食品廃棄を減らし・過剰な消費をやめれば」食料生産増加の必要性が減り(従ってアグリビジネスのビジネス機会が減り)(FAO 持続可能な農業への転換と食品廃棄の削減で世界人口を養うことができる)、アマゾン森林破壊も自ずと減速する。世界の肺・アマゾン森林の運命は、農業と食のあり方に大きくかかわっている。

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 Tesco supplier accused of contributing to Amazon rainforest destruction,The Guardian,12.6.6
 (英国消費者は、テスコから肉製品を買うことで、そうとは知らずにアマゾン雨林の破壊に貢献している―グリーンピース