農業情報研究所環境森林>ニュース:2018年2月24日

世界の森林先住民 パーム油で貧困化 バイオ燃料用利用禁止を欧州議会に要請 

昨年4月、EUの欧州議会が森林破壊を促すパームオイルをはじめとする植物油から作るバイオン燃料の販売を2020年までに段階的に禁止するという決議案を採択した(パームオイルで欧州議会が決議 単一持続可能認証スキーム導入とバイオ燃料用利用の2020年までの廃止 農業情報研究所 17.4.15)。さらに今年1月にはパームオイルの2021年までの段階的廃止を決めた(MEPs set ambitious targets for cleaner, more efficient energy use,European Parliament,18.1.17)。

欧州議会の決定が即EU立法となるわけではなく、その法令化と実施には加盟国の全担当閣僚で構成される閣僚理事会の議決が必要だ。パームオイル利用禁止に反対するとみられるイギリスやオランダのような国もあり(Government refuses to say if it will back EU move to ban palm oil in biofuels,Greanpeace,18.2.23Netherlands against EU palm oil ban,The Malaysian Insight,18.2.8More EU countries pledge support against palm oil ban,Malasyan Reserve,18.2.23)、事の行方はなお定かでない。

しかし、EUにおけるこのパームオイル利用締め出しに向けた動きの加速に、パームオイルの世界輸出シェア90%を誇る東南アジア諸国―特にインドネシア、マレーシアーなどの政治指導者の心中は穏やかではない。EUの動きを押しとどめようと必死になっている。最大輸出先のEUの輸出禁止を阻止できないとになれば、国のパームオイル産業と固く結びついた彼らの政治的影響力が傷つくことは必定だ。EUのパームオイル禁止は保護主義だ、植民地主義だ、貧困削減努力を台無しにすると大騒ぎだ。

今年1月には、マレーシアの1700人ほどの小規模パームオイル生産者もクアラルンプールのEU大使館に集合、EUの動きはマレーシアに対する差別であり、国連の貧困削減のための持続可能な開発の土台を掘り崩すものだと抗議の声を上げている。このとき、連邦土地開発局(Felda)のシャフリール・アブドゥル・サマド議長も、EUの動きは「生計をパームオイル産業に依存する320万の農民を貧困の底に突き落とす」と、彼らに同調している(Over 1,000 protest against EU move to ban palm oil biofuel,Malay Mail Online,18.1.16)。

ところがである。イギリスのガーディアン紙が報じるところによると、今週、オイルパーム・プランションに生活を脅かされているアジア、アフリカ、ラテン・アメリカの森林先住民が欧州議会を訪れ、イギリスとヨーロッパ諸国が森林保護の目的を達成しようとするなら、彼らの土地、権利、環境を守るためにバイオ燃料のためのパームオイル使用を禁止し・そのサプライチェーンの監視を強化せねばならないと語ったという。

アジア、アフリカ、ラテン・アメリカの11ヵ国の14の森林居住民グループの代表者の一員をなし、先住民組織・Pusakaの創設者であるFranky Samperanteは、インドネシア政府は地方コミュニティが我がもの主張する120万ヘクタールの土地を、50以上の企業がプランテーションを拓くために譲許した、この地域からのパームオイルは土地紛争の産物を見なされ、ヨーロッパでの販売は禁止されねばならないと言う。

 代表団は、ヨーロッパ諸国が人権・環境侵害報告を精査する持続可能な貿易オンブズマンを設立すること、企業は自主的行動よりも拘束力ある人権政策を採用するなど、具体的手段を提案した。彼らの要請は、Forest People’s Programme, Global Witness, Greenpeace, WWF and the Environmental Investigation Agencyなどの環境NGO連合に支持された。a report on rights and deforestationの著者であるTom Griffithsは、森林を保護するという高尚な目的はそこに住む人々の権利の保護に失敗することで台無しになっている、企業や政府は紙の上で響きのいいたくさんの約束をするが、現実はまるで異なると言う。

 彼らの勧告は6月のパリでの多国間会合に提出される。このとき、フランスのマクロン大統領が“deforestation-free trade”.のための戦略を打ち上げるという。

Britain and Europe must ban palm oil in biofuel to save forests, EU parliament told,The Guardian.18.2.23

わが国では、再生可能エネルギーの買い取り制度の導入以来、太陽光発電施設の急増で国内森林破壊が加速する一方(農業情報研究所:太陽光発電、メガソーラーと環境・自然破壊)、輸入に頼るパームヤシ殻や木質ペレットによるバイオマス発電の増加(環境に優しいはずが-パーム油発電事業の矛盾、再エネ推進の課題に Bloomberg 17.11.8)が海外森林の破壊の加速に貢献している。日本も森林先住民の悲痛な声に耳を傾けるべきときだ。

関連情報

争いではなく対話で森林減少の解決への糸口を探る アイディル・フィトエリさん 環境NGO{Haki] グローバネット(地球・人間感興フォーラム) 2018年2月号(327号) 1頁