農業情報研究所


カナダ:家畜への抗生物質使用削減・監督強化の勧告

農業情報研究所(WAPIC)

02.8.30

 カナダの”Globe & Mail”紙が伝えるところによると(Curb farm antibiotics, Ottawa toldspace,The Globe and Mail,8.29)、カナダ保健省に提出される専門家委員会の未刊のレポートが、カナダ農民のよる抗生物質使用は大きく減らされ、厳しい監督下に置かれねばならないと勧告している。同紙が伝える主要な勧告は次の諸点にわたる。

 ・農業用抗生物質は処方によってのみ入手できるようにすべきである。現在は飼料店や協同組合から購入でき、日常的に飼料に添加されている。

 ・抗生物質の輸入が規制されるべきである。現在は、許可なしで中国や台湾から輸入されている。

 ・抗生物質は承認された目的でのみ使用されるべきである。ある種の抗生物質は家畜の病気治療のためではなく、家畜を太らせるために使われている。抗生物質が生長を速めるメカニズムは分かっていないが、小量の継続的使用は風土病を減らし、免疫システムを強化し、消化管中の消火を妨げる細菌を殺すと考えられる。

 ・生長促進抗生物質が有効なものかどうかを決定するために試験が行なわれるべきである。有効でないと分かれば、農民は無駄な使用を止めるであろう。

 ・家畜における抗生物質抵抗性の高まりが監視されるべきである。有益な数字はないが、昨年、「ニューイングランド医学ジャーナル」に発表された研究によると、米国ワシントンD.C.において、薬剤抵抗性サルモネラ菌がひき肉の17%、チキンの17%に発見されている。

 EUは、1998年、人間の医療において重要な動物成長促進抗生物質の使用を禁止したが、1995年に同様な禁止措置を取ったデンマークの最近の研究は、そのような禁止の有効性を示している。ある一つの抗生物質に対する抵抗性は、チキンで73%から6%に、豚で94%から6%に低下した。

 委員会メンバーの一人であるDonald Low博士は、カナダ及び米国での家畜の抗生物質抵抗性に関する一層のデータが収集されれば、科学的意見がEU同様の禁止に向けて動く可能性があると言う。

 関連情報
 EU:飼料添加物安全ルールと成長促進剤としての抗生剤の禁止を提案,02.3.26

 (追記)わが国における食品安全問題への関心は、BSEの問題を別とすれば、現在、専ら農薬問題に向けられている。中国からの輸入ホーレンソウにおける基準を越える農薬残留や無登録農薬の使用の問題である。しかし、ここで問題にされている家畜に使用される抗生物質の問題をはじめ、現代の食の安全を脅かす要因は極めて多様である。農業生産者や関連業界は、センセーショナルに取り上げらる問題だけでなく、これら多様な要因に細心の注意を払わねばならないであろう。

 一九九〇年代後半の食品安全騒動の続発以後、EUの食品安全政策は飛躍的に強化され、今年二月には欧州食品安全庁も動き出した。しかし、その後にも騒動が続発している。東南アジアからのエビや鶏肉中の禁止抗生物質発見、魚油中の許容量を超えるダイオキシン発見、タイやブラジルからの輸入鶏肉を再加工したオランダ産鶏肉中の牛のDNA発見、有機畜産用飼料中の禁止除草剤・ニトロフェン発見、ソフト・ドリンクや豚の飼料中の禁止ホルモン・MPA発見、等々である。このことは、EUのような強固な安全管理政策をもってしても、あらゆるものが恐ろしい速さで世界中を行き来し、新しい技術や製品が不断に投入され続けるこの時代の食の安全を確保することはできないということを示している。

 「トレーサビリティ」により消費者に安全を売る動きが広まっているが、余ほどの注意がなければ、当事者が気付かないリスクが、いつ、どこで入り込むか分からない時代なのである。有機表示の豆腐と納豆の3割に遺伝子組み換え大豆が含まれていたという農水省発表も出たばかりである。自らの足元をしっかりと見つめていないと、いつかその足元をすくわれることになるかもしれない。農薬については、生産者や業界による検査が広がりつつある。しかし、それだけで十分なのか。効率優先のためにどこかに落とし穴ができていないだろうか。この時代を生き抜くためには、常に反省することが不可欠ではなかろうか。

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