農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

EU:欧州委員会、飼料安全規則の強化を提案

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.25

 4月24日、欧州委員会は動物飼料の衛生要件に関する新たな規則案を採択するとともに、飼料に使うことできる資材の「ポジティブ・リスト」の作成は飼料の安全性を決定的に確保するものではなく、そのようなリストを作成するための提案はしないという欧州議会・閣僚理事会宛ての報告を提出した(New feed hygiene requirements: the missing link to guarantee food safety)。

 新規則は、BSE危機、ダイオキシン・抗生物質・ホルモンなどによる食品汚染、遺伝子組み換え(GM)食品など、食品安全にかかわる騒動の続発を受け、「農場から食卓まで」の食品安全を脅かし得るすべての要素を取り除こうと提出された欧州委員会の「食品安全白書」(2000年1月)が掲げた行動計画の一つを実現するものである。これにより、主要な行動計画のすべてが実現することになる。

 BSEはもちろん、最近の食品安全騒動の多くも飼料(ダイオキシン汚染、除草剤・ニトロフェンやホルモンの検出)に起因する。新規則は食品安全の確保のために決定的な意味をもつことになるであろう。EUには飼料添加物、監督、表示など、飼料の安全確保のための規則は既に存在する。しかし、新規則案が提案するような飼料の生産・輸送・貯蔵・取り扱いに関する規則は欠けていた。新規則案はこうした空隙を埋める。それは、問題が生じたときのコストを支払えるように、飼料事業者に対する財政保証の確保の義務も定める。コストは納税者ではなく、汚染者が払わねばならない。

 これが実施されれば、EU全域において飼料の安全性レベルは飛躍的に向上することになる。今後、閣僚理事会と欧州議会の審議を経て、2006年早期に発効することになりそうである。しかし、飼料産業は、提案を大筋では歓迎しながらも、財政保証の実行可能性には懸念を表明している。このような保証の大部分は特別保険によることになるが、特に小規模生産者には重大な財政負担を強いるからである(Brussels to tighten animal feed controls,Financial Times,4.24,p.5)。

 新規則案の主な内容は次のとおりである。

 ・規則は飼料の第一次(農場での)生産も含む飼料生産すべての段階で適用される。これは「農場から食卓まで」、すべて段階を通じてのトレーサビリティーを改善し、問題が発生したときの迅速で、正確な飼料の確認を可能にする。

 ・既に食品生産企業に義務付けられるのと同様、企業は安全な飼料だけが販売されるように要求される。

 ・事業者は、大気・土壌・水・農薬から生じる汚染を防止する措置など、規則に定められた衛生要件を遵守せねばならず、従業員は適切な訓練を受けていること証明せねばならない。

 ・第一次生産以外のレベルの飼料事業者は、飼料安全確保のためにコントロールが決定的に重要な場所を確認するために、HACCPを実施しなければならない。これは産業による自己点検システムであり、各事業所は特別の監視計画を策定、あり得るすべての危険が確認されねばならない。各飼料事業のための適切な監督手続が個別に設定され、行なわれたすべての点検の記録が保存されねばならない。

 ・すべての飼料事業は関係当局に登録を強制される。

 ・国及びEUレベルでの飼料生産のための「グッド・プラクティス」の指針の開発。これは、特に農場レベルの第一次生産に関係する。

 ・飼料事業者は、事業に関連したリスクのコストー製品回収、飼料や汚染食品の処分や廃棄のコストなどーをカバーする保険等の財政保証の確保を義務付けられる。

 ・家庭消費用の飼料の私的生産、非食用動物の飼料、ペットフード小売、地方レベルの小量の飼料の農業者間取引には規則は適用されない。EU諸国はこれらの例外を管理する国レベルのルールを策定できる。

 他方、飼料資材のポジティブ・リストの策定は提案しないという報告について、バーン消費者保護・食品安全担当委員は、禁止された、あるいは望ましくないとされた物質により引き起こされた最近の食品危機のどれ一つとしてポジティブ・リストでは防止されなかった、「クリーンな飼料を得るためには、今日提案されたような衛生規則を遵守することが重要である。しかし、禁止資材のリストを完成する作業は続けることになる。ビジネスは禁止物質が使用されないように保証しなければならないし、EU諸国当局はこの禁止を厳格に監督する必要がある」とコメントしている。

 欧州委員会がポジティブ・リスト策定を望まない理由としては次のように言われている。

 ・飼料資材の安全性はその特性だけでなく、それが加工され、取り扱われ、輸送され、使用される方法にかかっている。安全を目指す資材の分類は様々なタイプのすべてのプロセスを考慮せねばならない。従って、最終飼料の安全の確保のためには、プロセスの安全性を確保するルールを開発するのがベターである。

 ・資材はある種の動物には安全でも、別の種類の動物には安全でない。ポジティブ・リストは、各飼料が利用される可能性のあるすべてのあり得る動物種を考慮に入れなければならない。

 なお、飼料の安全性に大きくかかわる「動物副産物」規則EU:動物副産物規則を採択,02.9.29;EU:農相理事会、動物副産物規則を採択,01.11.25)は5月1日から実施に入る。この規則は、動物副産物(人間の消費に供されない屠殺動物の部位)に関する獣医規則を改めるもので、獣医の検査で人間の消費に適するとされた動物由来の副産物だけが飼料の生産に利用できるとしている。残飯は毛皮動物を除く農用家畜の飼料に使うことを禁止される。また、同一種内の「共食い」も禁止される。4月22日には、食品チェーン及び動物保健に関する常設委員会が、この規則を実施を可能にするための一連の例外措置や移行措置を採択した(Imminent implementation of strict rules on animal by-products facilitated)。共食い禁止について言えば、養殖魚の特定の病気のリサイクルを避けるために、養殖魚の廃棄物を養殖魚に与えることは禁止されるが、養殖魚に同一種の野生魚由来の飼料を与えることは永久的例外とされた。また、毛皮動物に、原料の安全性・加工基準・記録保存・公的サーベイランスなどの条件に従う同一種の動物の廃物を与えることも例外とされた(これを利用するのはフィンランドのみと見られる)。