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英国食品基準庁、ピコリン酸クロム禁止を提案、栄養補助剤に警告

農業情報研究所WAPIC)

03.5.9

 5月8日、イギリス食品基準庁(FSA)は、適量を超えて摂取すれば悪影響を与える可能性がある一定のビタミン・ミネラル補助剤に関する新たな勧告を発表した(FSA,New FSA advice on safety of high doses of vitamins and minerals,03.5.8)。

 この勧告は、よく知られた34のビタミン・ミネラル補助剤の安全性を見直す委員会の報告を受けたものである。この委員会は1998年に設置されたもので、11人の医学・科学専門家と1人の非専門家で構成され、消費者、保健・食品産業、代替医療関係者の4人がオブザーバーとして参加した。委員会は4年をかけて全体で1万、各栄養素について平均300にのぼる文献を参照、このほど、350頁を超える報告書・「ビタミンとミネラルの安全上限レベル」を発表したものである。

 委員会のこのような努力にもかかわらず、これら補助剤使用の安全性を支持するデータベースは、一般的には非常に貧弱で、一部については動物実験に頼らねばならず、その多くの勧告は非常に限られたデータに基づくものだという。摂取量の上限が提案されたのはビタミンB6、βカロチン、ビタミンE、ホウ素、銅、セレニウム、亜鉛、シリコンの8補助剤にとどまった。ビオチン、葉酸、ナイアチン、パントテン酸、リボフラビン、チアミン、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、クロム、コバルト、ヨウ素、マンガン、モリブデン、ニッケル、スズ、カルシウム、鉄、マグネシウム、燐、カリウムについては、安全上限を勧告する十分な証拠がなく、「ガイダンス」が提案された。ゲルマニウム、バナジウム、塩化ナトリウム(食塩)については、データはガイダンスを出すにも不適切であったという。

 このような見直しを受け、FSAは、大部分のビタミン・ミネラルの現在の摂取は有害とは考えられないが、一つの物質は癌を引き起こす可能性があり、その使用禁止の提案を諮問、六つの補助剤は、過剰に摂取すれば回復不能な、三つの補助剤は一時的な副作用を引き起こす可能性があると結論した。

 禁止提案を諮問したのはクロミウム・ピコリネート(ピコリン酸クロム、ChroMium Picolinate)である(他の形態のクロムは、全体で1日10r以下の摂取ならば害はないとしている)。これは減量のために使われる。日本でも、インターネットを通じてみると、これを含む多数のダイエット補助剤が様々な商品名で販売されているようである。

 βカロチン、ニコチン酸、亜鉛、マンガン、燐、ビタミン6は、長期にわたり過剰摂取を続けると、回復不能な影響を与える可能性があるとされた。βカロチンは、特に喫煙者やアスベストに曝された人の肺癌発生の増加につながる可能性があるとされている。ビタミン6の長期過剰摂取は腕や脚の感覚喪失につながる恐れがあり、医者の勧めがないかぎり、1日10r以上の摂取は好ましくないと強調された。

 摂取を止めれば影響が消える一時的副作用が警告されたのはビタミンC、カルシウム、鉄である。ビタミンC(1日1000r以上)の過剰摂取は腹痛や下痢を起こす恐れがあり、カルシウム(同1500r以上)と鉄(同17r以上)も、一定の人々には同様の症状を引き起こす恐れがある。

 以上のほか、FSAは特定グループの人々に宛てたいくつかの勧告も行なっている。

 ・出産年齢の婦人と妊婦(妊娠第12週まで)は、子供の神経管欠損を減らすために、毎日、0.4rの葉酸補助剤を摂取、葉酸に富む食品を多量に食べるべきである。

 ・妊娠中か授乳中の場合、1日0.01rのビタミンDを含む補助剤を摂取すべきである。一部の高齢者は、医者と相談のうえで、ビタミンDを取る必要がある。

 ・妊婦、または妊娠を考えている婦人は医者との相談なしにビタミンA補助剤を摂ってはならない。これはレチノール(ビタミンAの元)の高レベルの消費と一部の先天的欠損症の発生の間に関連があるからである。追加的予防のために、レチノールを多量に含むレバーやレバー製品を食べないようにすべきである。

 ・6ヵ月から2歳(多種の食品を食べない者は5歳)までの子供は、ビタミン・ドロップス(A、C、D)が有益である。

 最後に、FSAは、多種の、バランスの取れた食事をしていれば、大抵の人は補助剤は必要でないとしている。

 人々の健康志向が強まり、イギリスでも栄養補助剤市場は大きく拡大してきた。新たな研究により、これら製品の製造者は製品のビタミン・ミネラル含有量を減らし、健康影響に関する情報の提供するなどの新たな対応を迫られることになった。FSAは産業が自主的に対応することを望んでいる。しかし、これは規制の第一歩にすぎない。2005年までには、EUレベルでの規制は始まるであろう。EUの新たな食品添加物指令は、科学的アセスメントと他の食品からのビタミン・ミネラルの摂取に関するデータに基づいてその摂取の上限を設定するとともに、産業に対してはラベルにより詳細な情報を提供することを求め、製品が病気を予防する・直すなどと表示することを禁じるであろう(EU:欧州議会、食品添加物指令に合意,02.3.15)。急速に拡大してきた栄養補助剤産業は大きな転機に直面している。同時に、消費者も、自身の食生活を真剣に見直すことを迫られている。

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 Vitamin sales boom sparks fears over risk of excess doses,Independent,5.8