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マクドナルド、成長促進抗生剤使用禁止へ

農業情報研究所WAPIC)

03.6.19

 「ワシントン・ポスト」紙が伝えるところによると、ファスト・フード・チェーンのマクドナルドは、肉の納入者に対して、家畜の成長を速めるために使われる抗生剤の使用を停止するように指示している(McDonald's Will Tell Meat Suppliers to Cut Antibiotics Use,The Washington Post,6.19)。

 マクドナルドは、主として鶏肉を供給する直接納入者が人間の医薬品として使用される抗生剤に関連する24の成長促進抗生剤を使用することを禁止する。また、牛肉・鶏肉・豚肉を供給する農業者の選定においても、成長促進抗生剤の使用を避ける者を優先するという。この政策は2004年末までには世界的規模で実施することとし、納入者には記録の保存を要求、定期的に監査する。

  抗生剤を飼料に混ぜて成長を速める飼育方法により家畜の体内に抗生剤が常時存在することになる。そのために病原菌の抗生物質抵抗性が発達、その抗生剤耐性菌が人間に移転すると、人間の病気の治療のために必要な抗生剤が効かなくなってしまう。このような危険性が早くから指摘されてきた。マクドナルドの今回の措置は、消費者のこのような不安に応えるマーケッティングの手段として採用された。しかし、現在世界中に広まっている「工業的」な家畜飼育方法では、これは不可欠な慣行となっており、これをやめると家畜の病気が多発、結局は治療のための抗生剤使用を増加させてしまう傾向があることが指摘されている。

 食品医薬局(FDA)は、マクドナルドの決定について、「非常に大きな国際的企業がこうしたことを行なうときには、[このような慣行の廃止に向けての]重要なステップになる」と高く評価しているようである。しかし、マクドナルドの決定は、成長促進のための抗生剤の使用は禁止するが、病気治療や農場での病気発生の予防と抑制のための抗生剤使用は認めている。従って、一部「活動家」は、病気の予防と抑制を口実に、処方箋が必要のない成長促進剤の使用の継続を農民に許すことになる可能性があると批判しているという。

 他方、動物用薬品製造業者を代表する「動物保健協会(Animal Health Institute)」は、動物用抗生剤はFDAが安全性にお墨付を与えており、マクドナルドの決定は科学的根拠に基づくものではなく、同様に科学的根拠なしに成長促進抗生剤の使用を禁止したために家畜病と病気治療のための抗生剤使用が劇的に増加したEUの二の舞になるだろうと批判している(Statement by the Coalition for Animal Health Regarding McDonald's Corporation Global Policy on Antibiotic Use in Food Animals,6.19 )。同協会は、昨年9月、抗生物質販売量は、1999年の2400万ポンド、2000年の2370万ンド、2001年の2180万ポンドと3年連続で減少しており、「獣医用抗生剤の責任ある使用の確保のために分別ある使用と予防的ケアの原則に向かって前進している」証拠だと発表している(Survey Shows Decline in Antibiotic Use in Animals)。ワシントン・ポストは、同協会が2001年に農場で使用された抗生剤の13%から17%が成長促進のために使われたと見ているという。しかし、「社会参加科学者連合(Union of Concerned Scientists)」は、この数字が50%以上になるだろうことを調査が示していると言っていることも紹介している。

 イギリス企業は1999年、強力なマーケッティングの武器として成長促進抗生剤の使用停止を約束した。しかし、最大手スーパー・テスコは抗生剤飼料添加を復活させたし、その後も抗生剤使用は大して減っておらず、種類によっては増えてさえいるという(イギリス:養鶏農民、国民の不安にもかかわらず成長促進抗生剤を再導入(03.5))。「工業的」飼育方法に手をつけることのないこのような措置が実効をあげることができるのかどうか、しばらく成り行くを見ることになりそうだ。

 なお、EUは人間の医療用に使われる抗生物質の飼料添加を禁止してきたが、2006年からは、さらに飼料からすべての抗生物質を排除することを決めている。

 関連情報
 
抗生物質(antibiotic)