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EU:欧州委、食品栄養健康表示厳格化を提案、米は逆方向へ

農業情報研究所WAPIC)

03.7.17

 7月16日、欧州委員会は、添加物も含む食品についてなされる栄養と保健にかかわる主張(表示)に関する規則案を採択した。欧州委員会によれば、消費者は自分が何を食べているのか、それが健康にどう影響するかについて関心を高めており、食品産業は一層詳細な栄養分表示を提供し、しばしば一定の食品の有益な効果を主張することでこれに応えてきた。栄養に関する主張の使用の条件を定めず、健康にかかわる主張を許していない既存の表示に関するルールDirective 2000/13/ECと栄養表示に関するルールDirective 90/496/EECは、しばしば適切に執行されていない。従って、消費者は、適切に実証されことのない主張により誤解させられる恐れがある。従って、この規則案は、栄養と保健に関する主張の使用の条件を明確に定め、一定の主張を禁止し、食品の栄養的側面に関する主張の使用を科学的に評価することによって法的保証を与え、これらの問題に取り組む。その結果としていかなる食料製品も禁止されるわけではないが、それに関する主張は消費者にとって真の意味をもつものとなるという。規則案は欧州議会と閣僚理事会の承認を必要とし、2005年までには徐々に執行に入ると見込まれている。以下、欧州委員会のプレス・リリースCommission proposal on nutrition and health claims to better inform consumers and harmonise the market,7.16により、規則案の主要な内容を紹介する。規則案そのものについては、Proposal for a Regulation on the use of nutrition and health claims (COM(2003)424)を参照されたい。

 栄養に関する主張

 「低脂肪」とか「高繊維」とかの栄養に関する主張(表示)は、製品に何が含まれるか、含まれないかに言及するものである。現在、これらの主張(表示)の使用を規制する法的に拘束的な条件は存在しない。規則案は、このような主張の使用を、例えば「高繊維」と主張される製品が定められた単位量当たりの最低繊維量を含むように、調和させることを目指す。この場合、「高繊維」の主張は、製品が100g当たり最低6gあるいは100kcal当たり最低3gの繊維を含む場合にのみ許される。自然のままで高繊維の食品については、この主張(表示)の前に、「自然に」の表示を付けることができる。

 さらに、例えば「90%脂肪含まず(90%fat-free)」という主張は事実を正確に述べているが、実際には10%の脂肪は相当に高脂肪なのに低脂肪であることを含意するために、消費者に誤解を与える恐れがある。この場合、製品が100g当たり、または100ml当たり0.5g以上の脂肪を含まない場合にのみ、”fat-free”の主張が許される。”x%fat-free”の表示は禁止される。自然に”fat-free”の場合には、繊維の場合と同様な表示が許される。

 その他、ANNEXには、「低エネルギー」、「エンルギー削減」、「エネルギーなし」、「低脂肪」、「低飽和脂肪」、「飽和脂肪含まず」、「低糖分」、「糖分含まず」、「糖分添加せず」、「低ナトリウム/食塩」、「極低ナトリウム/食塩」、「ナトリウム含まず/食塩含まず」、「繊維源」、「蛋白源」、「高蛋白」、「自然のビタミン/ミネラル」等々、様々な主張(表示)について例示されている。

 保健に関する主張

 現在は消費者の誤解を招く主張は一切禁止されている。人体における栄養素の役割に関する多くの主張は、例えばカルシウムは歯と骨の強化に重要な役割を果たすというような、異論がなく、十分に確認されたものである。

 欧州委員会は、規則発効後3年以内に、許される主張のポジティブ・リストを策定する。これらの十分に確認された主張と、「ホール・グレインは心臓を健康に保つ/心臓病のリスクを減らす」などの新規な主張は区別する。後者のタイプの主張は、個別の科学的評価と販売前の承認を義務付ける。欧州食品安全庁(EFSA)により評価されたのち、実証できる主張だけがEUレベルで承認される。

 許されない主張(表示)

 表示・マーケッティング・広告で使用される不明確で・不正確で・意味がなく・実証できない食品及びその栄養価に関する情報は、一切許されない。これは、一般的な幸福にかかわる主張(例:体がストレスに耐えるのを助ける)、心理的・行動的機能にかかわる主張(例:記憶を改善する、あるいはストレスを減らし・楽観的にする)にかかわる。痩せるとか、体重コントロールとかの主張(例:カロリー摂取を半分にする/減らす)は許されない。例えば特定の食品を食べないことが健康問題につながると示唆するような医師とか保健職業者による言及や保証は許されない。アルコールは別の健康・社会問題を伴うとわかっているから、1.2%以上のアルコール飲料の健康への好影響の主張は許されない。アルコールまたはエネルギーの削減に言及した主張のみが許される。

 栄養的側面

 栄養に関する基本原則は、「良い食品」と「悪い食品」はなく、「良い食事」と「悪い食事」があるということである。長期的には多様化する食事では、すべての食品が含まれることになる。しかし、食品に付される主張は、消費者により、自動的に「良い食品」と受け取られる。さらに、一定の食品を消費することの有益性に関する主張は、良い食事の小さな一部を構成すべき食品の大量の消費につながる恐れがある。従って、栄養的側面に基づく一部食品に関する主張の使用を制限する必要がある。脂肪、砂糖、塩の過剰消費と一定の慢性病の関連については科学的証拠があるから(特に2003年3月のWHOのレポート⇒WHOに食事に関する行動の要請)、これらの量が製品の栄養的側面の基準となる。 

 欧州委員会は、規則採択後18ヵ月以内に、関係者と緊密な協議をし、EFSAの意見に基づき、食品チェーン・動物保健常設委員会内の各国と合同で、栄養的側面を評価する。人々の食事でその役割と重要性に依存している食品に関する一定の主張には例外が必要となろう。

 規則案に対する反響

 この規則案に対する評価は様々である。BBC NewsEU plans food claims clampdown,7.16)によると、イギリス食品基準庁(FSA)は、「誤解につながらず、健康を促進するための努力を台無しにしない真実の情報を表示が提供するように保証する調和的アプローチ」と歓迎している。労働党議員・カテリーヌ・スティフラーは、「イギリスでは五人に一人が肥満で、肥満の子供の数はこの10年で倍増した。ピザ、フレンチフライ、ジャイアント・マフィン、チョコレート・クッキーがあらゆる街角で売られており、誘惑にこと欠かない。間違った情報を与えられては、良い食品選択は不可能だ」賛同している。

 しかし、食品製造業者は反発している。イギリス飲食料品連盟(EDF)は、製造者が欧州委員会の基準に合致しない製品の利益を強調することが禁じられると恐れている。そのスポークスマンは、製品が脂肪や砂糖を含むというだけでは消費者に利益がないとはいえない、提案は新製品の研究・開発投資を妨げると言う。さらに、一つか二つの国だけで販売しようとする製品にもすべてのEU構成国の言語での表示が要求されるから、表示を望む企業に不当な負担を課すことになるとも言う。

 アイリッシュ・インディペンデント紙(New rules to target food advertising,7.16)は、ギネスのようなアルコール企業には特に打撃になろうと報じている。同紙は、イギリスやアイルランドでは提案に対する広範な支持があるが、ドイツでは批判が噴出、広告主は製品販売の権利を侵すと主張しているという。

 対照的な米国の動き

 ところで、今月10日、米国食品医薬局(FDA)は、確定的研究がなされ、科学的コンセンサスができている場合にのみ許されている現在の健康にかかわる食品表示(主張)を改め、より広範な証拠に基づく主張を承認する計画を発表した(FDA:Better Health Information for Better Nutrition)。この計画は、今年9月1日から実施される。表示や主張の信頼性は、科学的コンセンサスのある証拠に基づく「A」に始まり、信頼性が最も低い「D」までにランク付けされる。FDAは、新たな政策は、購入する製品の健全性に関する一層多くの情報を消費者に与えるとともに、食品供給者の健康関連面での競争を促進すると言う。現在は価格・味・調理の容易さなどの面で十分な競争があるが、最も競争が激しいのは健康影響の面であり、このような規制緩和が健全な食品の一層の開発を促すだろうというのである。一部の議員や消費者団体は、これは、現在の制度を定めた1990年栄養法を侵し、薄弱で科学的に確定的でない証拠に支えられた混乱した・怪しげな表示にドアを開くと批判している(Looser Rules Proposed for Health Claims on Food Labels,The New York Times,7.11;FDA Eases Rules On Touting Food As Healthful,The Washington Post,7.11;Changes in Food Rules Questioned,The Washington Post,7.11)。

 例えば、カロリーと脂肪が多いことで知られるピーナツなどの大部分のナッツには、「科学的証拠は、飽和脂肪とコレステロールが少ない食事の一部として1.5オンス(約42g)のピーナツなどのナッツを食べることは心臓病のリスクを減らすことを示唆しているが、証明はされていない。脂肪含有量についての栄養情報を見よ」という表示が承認され、その信頼性ランクは「B」とされる。これが産業と消費者の双方にどれだけの利益をもたらすというのだろうか。消費者は混乱し、ピーナツへの懐疑はかえって深まるかもしれない。「心臓病のリスクを減らす」という表記だけに捕らわれ、他の細々とした注意には目が行かない消費者も多いであろう。心臓への悪影響を恐れてピーナツやピーナツバターの摂取を控えていた消費者が、逆に摂取を増やし、カロリー・脂肪過多に陥る危険性もないとはいえない。健康が不安な消費者はもとより、健康に気遣う消費者ほど、健康に良いとされた食品ばかりを過剰に摂取し、食事のバランスを欠く結果となる傾向がある。このような形で健康被害が起きた場合、あるいは後になって主張自体が間違っていることが判明するようなことがある場合、責任は消費者にあるのか、このような行為を誘発した規制者にあるのか、それとも食品供給者にあるのか。タバコ訴訟や肥満訴訟を上回る複雑な司法問題も生まれるかもしれない。

 国民の健康は米欧のいずれがよりよく護ることができるのだろうか。社会の発展の基盤が健康な人口と健全な環境にあるとすれば、これはただ食品だけの問題ではない。