農業情報研究所

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フランス-アフリカ・サミットにおける農業開発に関するシラク大統領発言

農業情報研究所(WAPIC)

03.3.1

 2月24日付の当研究所のニュースでフランス:シラク大統領、アフリカ向け輸出補助の一時停止を提案と伝えたが、その後シラク発言の全文(Intervention de Monsieur Jacques Chirac, Président de la République, lors de la 22ème conférence des chefs d'Etat d'Afrique et de France, concernant le développement agricole)が公表されたので、発言の詳細を紹介する。

 (1)2000年国連ミレミアム宣言の目標の実現を可能にする年平均7%の経済成長をサブサハラ・アフリカで達成するためには農業開発が決定的に重要である。今日なおこの地域を脅かしている飢餓の危機は、緊急の人道的対応だけでなく、長期的対応を必要とする。食糧安全保障は、大部分は食糧自給に頼ることになるが、堅固な食糧生産農業を建設しようとすれば、輸出作物の開発も必要である。

 (2)この観点からすると、ヨーロッパの輸入政策はアフリカに対して最も開かれており、有利なものであるし、熱帯産品を輸入する我々と、温帯産品を輸入するこの地域との間には農業をめぐる競争はなく、補完関係がある。今必要なことは、アフリカがより急速な開発の基盤である規則的販路をもつために、協力の強化を通じてこの補完関係をよりよく機能させることである。

 (3)ドーハ貿易交渉新ラウンドと「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」の実施は、アフリカ農業開発のための新たな戦略を構築する好機であり、常に不可欠であり、強化されねばならない技術支援を超えた次の三つの行動をEUとG8諸国に提案する。

 (a)アフリカ諸国の食糧生産の不安定化を回避するために先進国の輸出援助・輸出政策をよりよく管理すること。輸出助成については、フランスは、EU及びG8諸国と協議して、アフリカで最も小規模の農業生産者の不安定を生み出すものの廃止を検討する用意がある。国内市場への中心的食糧供給者とならねばならないこれら生産者は、例えば食肉・酪農製品・鶏肉・コメなどの低価格輸入品の大量の流入によって不安定にされる恐れがある。先進国は、輸出助成、食糧援助、輸出信用、過剰処理政策により、これに責任を負っている。フランスは、WTO交渉期間中、アフリカ向けの農産物輸出援助の先進国による一時停止(モラトリアム)を提案する。

 (b)アフリカのための特権的貿易待遇の防衛。これは多角的・普遍的自由化を目指すWTOの本性ではないが、この自由化はアフリカの利害に反する。アフリカの特権待遇がWTOで防衛されねばならない。これは単純で強固なものでなければならず、先進国がそのための共通で単一の制度を創出すること、それを持続させることを提案する。

 (c)一次産品の価格問題に取り組むこと。綿、コーヒー、ココアの輸出は、サブサハラ・アフリカの夥しい数の生産者と農業労働者の所得と生存の手段となっている。これらの価格低下は、この30年来、開発援助の半分に相当する損失をもたらしている。それは開発や対外債務でこれら諸国が遭遇する困難の重大な原因をなす。これらの困難は、時に、先進国による棉生産者への巨額の補助金によって一層重大化している。一次産品問題については、過去にも商品協定などによる取り組みがなされてきたが、挫折しており、これらの経験は勧告しない。従って、この問題への様々な他の手段の構築に向けての取り組みを再開するように、G8と国際諸機関に提案する。国際金融機関の実施面や金額綿での改善と貿易自由化政策の濃淡をつけること、債務の扱いを一次産品相場の変動に応じて調整すること、一次産品生産者のための開発援助の基本枠組の改善、価格変動を吸収する保証メカニズムの研究などが考えられる。現場に最も近いNGOとの協議も約束せねばならない。

 (農業情報研究所=WAPICからのコメント:フランスは、世界中の非難が集まるEUの生産者助成の断固たる擁護者であり、フランスの政府や中心的農業者団体は、輸出補助(やその他の国内助成)の途上国農業への悪影響を否定し続けてきた。それだけに、この提案は多くの人々を驚かせた。大統領は、(様々な形態の)輸出助成が国内食糧供給において決定的役割を演じる途上国小生産者の存続を危うくする恐れがあるとはっきりと認めている。少なくともシラク政権がこれを認めたのは初めてのことであり、画期的なことである。ただし、このシラク発言後も、大統領や農相は、生産者直接援助を削減しようとする欧州委員会の共通農業政策(CAP)改革は絶対に許さないと繰り返し発言している。大統領発言中の「先進国による棉生産者への巨額の補助金」の批判が、米国の国内助成を意識したものであることは明白であるが、これはEUの国内助成の自省とはまったく無関係なことのようである)