農業情報研究所

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WTO農業交渉モダリティ第一次案への最初の反応ーフランス、ノルウェー

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.14

 フランスー域内優先原則の破産をもたらし、競争相手の輸出大国を専ら利する

 12日、農業・食料・漁業・農村問題相と対外貿易相が、ハービンソン案は最貧国に不利で、ヨーロッパに不公平な負担を課すものだから受け入れられないという共同声明を発表した(La proposition agricole de l'OMC est inacceptable en l'état)。

 声明は特に次の3点を問題にしている。

 1)この提案が受け入れられると、経済的・エコロジー的な重要な役割を担うヨーロッパ農業政策の維持が禁じられることになる。それは、ヨーロッパの農業活動の半分以上を脅かす。両大臣は農業は他の部門と同じではないことを喚起、ヨーロッパでは、1,400万の農業者が、景観の調和を確保しながら、常に相対的に厳格な衛生・環境規則に従った高品質の生産物を供給していると言う。

 農業を世界市場の働きに委ねれば、ヨーロッパ市民が域内農業者の生産物を優先的消費するという共通農業政策(CAP)の基本原則の一つー「共同体優先」原則ーが消えてなくなる。

 2)WTO新ラウンドが開発に捧げられたものであるのに、この提案は、最貧国の特殊な困難にいかなる特別の配慮もしていない。ヨーロッパは、1975年、ロメ協定により、アフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国の産品に対してヨーロッパ市場での優先権を与えた。現在、ヨーロッパは、米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドを合わせた以上の途上国農産品を輸入している。提案はこれらの国の特殊な状況を考慮することを拒んでいる。その結果は既に予想できる。ウルグアイ・ラウンド同様、EUが譲った市場シェアは、専ら大農業輸出国を利することになり、世界貿易における途上国のシェアは減りつづけるだろう。

 3)提案は、明らかにヨーロッパに対して不公平なものである。ヨーロッパに対しては非常に大きな譲許、特に輸出補助金の段階的廃止を要求している。しかし、その主要な競争相手に、これに釣り合う約束を要求していない。これは、特に米国の支持政策、いわゆるマーケット・ローンに当てはまる。

 フランス政府は、輸出補助金による途上国へのEU農産物のダンピング輸出が、途上国の農業生産と食糧安全保障を脅かすという一般化した主張は根拠がないと退けてきた(参照:フランス農相、CAP大改革に反対を再確認,03.1.9)。それは欧州委員会によるCAP改革案に抵抗する根拠ともなっている。この声明での途上国配慮の必要性の強調については、特にジョゼ・ボベ等が主導するフランス農民同盟など、中小農民を含めた多くの人々が、専ら自国の大規模穀作農家の利益を最優先するシラク政府の隠れ蓑にすぎないと見るであろう。ここに示されたフランスの主張は、必ずしもEU内のコンセンサスを得られるものではないことに注意しておきたい。ただし、輸出補助金削減は、輸出補助金と同等な効果をもつ輸出信用(米国が多用)や食糧援助の名を借りた輸出市場拡大政策に対する厳格な規律の導入を前提とするというのは、EUの一貫した主張である。これに関しては、米国は常に積極的に対応してこなかったし、昨年成立した新農業法でも、こうした政策を後退させようとはしなかった。

 (注)EU(EC)が旧植民地諸国と結んだ協定であり、ACP諸国からのECへの輸出の大部分に非互恵的特恵を与え、また開発援助を供与することを定めていた。三次にわたる改定を経て、2000年6月には、一定の準備期間の後に非互恵的特恵を廃止し、その後20年間の貿易・経済協力関係の枠組みを定める「コトヌー協定」に引き継がれた。この新協定の下では、ACP諸国内の自発的地域協力・統合を強化、これら地域グループとEUの間で地域経済パートナーシップ協定(REPA)を結んで貿易自由化を進めることが目指されている。

 ノルウェーー高率関税廃止は国の農業の破滅、維持のために戦い続ける

 ノルウェーのAftenposten紙が伝えるところによると(Farmers fear WTO tariff cuts,2.13)、農相が、ハービンソン案により国の農産物を安価な外国農産物から保護する高率関税の削減が強制されれば、国の農業は直ちに破産すると述べた。

 貿易自由化に向けての国際的圧力の高まりのなかで、ノルウェーも保護政策を徐々に緩めてきたが、その食料品価格の高さは、高率関税に護られて、なお世界最高水準にある。高率関税の廃止は消費者に大きな利益をもたらすであろう。

 しかし、声高い農民の圧力に助けられ、官は農民の特権の維持のために戦い続けている。例えば、農相は、国の消費者価格は下がるだろうが、それほど大きくは下がらないだろう、フィンランドの農民はEU加盟により所得の30%を失ったが、食品チェーンが代わりに価格を上げたために、卸売り価格は10%下がったにすぎないと言う。

 彼は、提案が広く受け入れられるチャンスがあるとは考えていない。「我々は我々の立場で戦い続ける」、ノルウェーには、スイス、アイスランド、韓国、イスラエルからの支持があると言う。