農業情報研究所

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フランス農相、CAP大改革に反対を再確認

農業情報研究所(WAPIC)

03.1.9

 1月7日、イギリスのオックスフォードで開かれた第57回年次農業会議でフランスのゲマール農相が演説、EU共通農業政策(CAP)の抜本的改革に強く反対するフランスの立場を再確認し、世界の食糧安全保障の確保のために生産補助金を残さねばならないと強調した(Minstére d’agriculture ,d’alimentation,de la pèche et des affaires ruralesdiscurs du ministerDiscours d'Hervé GAYMARD devant la 57e Oxford Farming Conferences. Cette intervention, nourrie d'importantes références agricoles et culturelles, aborde successivement les questions de la PAC, de l'OMC et de l'aide au développement,1.7)。

 彼は、先進諸国は農業への公的助成を廃止する準備ができていないし、それが発展途上国の利益になると信じていないと言う。米国やEUの農業補助金が途上国の発展と食糧安全保障を脅かすという批判が渦巻いている。その削減あるいは廃止は、現在のWTOの下での農業交渉における発展途上国の中心的要求の一つをなしており、ドーハ・ラウンド全体の成否を左右する問題ともなっている。しかし、農相は、CAPと農業政策が途上国の発展の障害をなしており、廃止されるか、大きく修正されねばならないという見解をフランスは承服しないと言う。彼は、食糧安全保障の重要性を強調、EUでも米国でも、生産補助金は維持されねばならないとする一方、発展途上国に対しては食糧生産を増大させるために一層の援助を与えねばならないとフランスの立場を正当化する。

 昨年の保守政権の誕生以来、フランスは一貫してCAPの大幅改革に反対、昨年10月には大幅な改革のために必要な財政的フレキシビリティを減ずる(将来の財政展望に関する)独仏合意を勝ち取っている(CAP財政で独仏が合意、遠のく改革,02.10.25、欧州理事会(EUサミット)、CAP予算枠で合意,02.10.29)。しかし、CAPの将来は独仏だけが決めるものではない。イギリスは、状況が厳しくなったことを認識しながらも、なお改革推進の立場を崩していない

 同じ会議で、イギリスのマーガレット・ベケット農業担当相は、「CAPは変化、ビジネスを市場のシグナルからそらせる生産補助金からの脱却を必要としている」、「CAPは改革できるし、改革しなければならないし、改革されるだろう」と、フランス農相と真っ向から対立する演説を行なった(DEFRA:Beckett stresses importance of sustainability at Annual Farming Conference,1.7)。改革に関するEU構成国間の対立があるだけではない。財政展望は欧州議会との共同決定手続に服さねばならない。最終的な決定の権限は、構成国閣僚で構成される理事会にあるとしても、欧州議会は予算全体を拒否する権限をもつ。昨年、欧州議会の一議員は、「シラク・シュレーダー合意はEUのイメージを高めるものではまったくなかった。どこにデモクラシー、透明性、論争があったのか」と怒りの投稿を行なっているTerry Wynn,Shaping policy on agriculture,Financial Times,02.11.27,p.12)。

 CAPの将来は確定したものではない。フランツ・フィシュラーEU農業担当委員は、今月22日、補助金を食料生産から切り離し(デカップル)、環境保護や農村開発に振り向けることを中心とするCAP改革案の詳細を提案する予定である。農相は、この提案を前に、断固として大幅改革を阻止する意志を表明したものであろう。