農業情報研究所
フィリピン、WTO交渉の公式立場、農業補助金撤廃が最優先
農業情報研究所(WAPIC)
03.9.2
8月26日、フィリピンのアロヨ大統領が、メキシコ・カンクンでのWTO閣僚会合におけるフィリピンの立場を承認した。この立場は次の転点に重点をおいている。
・外国政府により農業者に与えられる補助金の廃止、
・外国から安価な薬へのフィリピンのアクセスの改善、
・米など基礎産品の関税削減の免除、
・サービス市場の外国人への開放と投資政策の一層の自由化への反対。
Business World紙(*)によれば、ロハス貿易産業相は、29日、国の公式な立場をビジネスマンに提示した。
農業に関しては、米国など先進国が農業者に提供する補助金に言及、国内支持と輸出補助の廃止につながる実質削減を求める。この点に関して、他の途上国と共闘する。8月24日に示された一般理事会の農業交渉大枠案は、食糧安全保障と農村家計に決定的に重要な特定産品の関税削減の免除を求める途上国に有利と判断している。この案では、「今後決定される条件の下で」ではあるが、関税保護に従う品目のリストップで柔軟性が増し、フィリピンにとって好都合だという。
農業交渉に関しては、フィリピンは農産物輸出国からなるケアンズ・グループの分裂を歓迎している。フィリピンの立場は、ケアンズ・グループよりも、先頃連携が成立したインド・ブラジル等14途上国グループ(⇒インド、中国、ブラジル等、WTO農業交渉で新提案,03.8.21)の方が反映させやすい。ケアンズ・グループのなかでは、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが米・EU案受け入れに傾き、グループ内の途上国が反対していた。フィリピンは、ケアンズ・グループ離脱により、国内支持・輸出補助に関して一層厳格な規律をを主張できるようになった。同じくBusiness World紙(**)によれば、連携する途上国は、最初の14ヵ国からさらに増え、20ヵ国に達しているという。
農業交渉におけるこのような立場とケアンズ・グループからの離反は、フィリピンの当然の選択と思われる。ウルグアイ・ラウンドでケアンズ・グループと行動を共にしたフィリピンの当時の政府は、新設のWTO加盟により、年々50万の新規農業雇用が生まれ、農産物輸出所得が大きく増加すると喧伝した。ところが、農業雇用は増加するどころか、94年の1,130万人が2001年には1,080万人に減った。食糧貿易収支については、93年の2億9千200万ドルの黒字から02年の7億9千400万ドルの赤字に転落した。WTO加盟の8年後、労働力の2割近くを構成する200万の米農民は、大量の米輸入に直面している。大量のコーン農民が移住、コーン作付地は93年の310万haから03年には250万haに減少した。食肉・鶏肉産業は米国からの安価な輸入品の洪水で荒廃、野菜輸入も99年の1万skら02年には200万sに急増、野菜生産は消滅の危機にある。自由化によってこれほどの破滅的影響を受けた国はそう多くはないだろう。フィリピンの農業交渉における立場は容易なことでは崩れない。
サービスに関しては、憲法に抵触するような自由化には反対する。いままでのサービス交渉におけるいくつかの提案―歯科医・医者・看護職への外国人参入―は受け入れられない。投資・政府調達・競争政策においては、外国企業のフィリピンでの操業を一層容易にするようなさらなる変化には同意しない。各国の自決権保持を継続し、WTOのような外国機関の決定に屈服するようなことはしない。
このような立場に関して、フィリピンはインドネシアとの連携も強めている。カンクン合意は想像もできない。
*Palace sets gov't stand on
world trade issues,9.1
**Cairns split-up to
benefit RP position in WTO taliks,9.1