米国有力農業団体、貿易自由化路線を転換、輸入保護重視へ

農業情報研究所(WAPIC)

04.1.17

 一貫して貿易自由化を唱導してきた米国農業界に重大な勢力関係の変化が生じているようだ。従来、砂糖、果実・野菜など、輸入「センシティブ」な部門の生産者は強力な政治的影響力をもつとはいえ、貿易自由化から最大の利益を得る小麦、コーン、米、大豆など輸出商品の生産者が圧倒的な主流を構成してきた。だが、今やこの勢力関係が拮抗するところまできているらしい。

 1月10日から14日まで、米国最大の農業者団体・全米ファームビューローの年次大会がハワイ・ホノルルで開かれた。16日付のファイナンシャル・タイムズ紙(US farm group rejects trade deals damaging to growers,p.4)によると、この大会の投票で、「米国の農産物貿易と食糧安全保障の利益を助長するが、・・・輸入センシティブな商品の経済的損害を防止する」将来の貿易協定だけを支持するという新たな立場を、204対202の僅差ながら可決したという。また、15日、砂糖産業団体がブッシュ大統領に書簡を送り、米国が砂糖の輸入を増加させるという提案を取り下げないかぎり、最近合意したばかりの中米諸国との新たな自由貿易協定(CAFTA、参照:CAFTA交渉妥結、コスタリカは離脱、米議会承認にも高いハードル,03.12.18)に「強く反対する」と警告した。それは、米国への輸入のレベルを統御不能なものにすると述べている。

 ファームビューロー幹部は、このような決定にもかかわらず、すべての商品をすべての貿易交渉の議題に乗せることは確認していると、新たな政策の影響は過大に評価すべきではないと言っている。だが、米国通商代表・ロバート・ゼーリックは、つい最近、WTO交渉を期限内に完成させるという書簡をWTO全加盟国に送って世界を驚かせたばかりだ。それは、EUの輸出補助金の期限付き廃止を要請(ただし、EUの輸出補助金以上に貿易歪曲的とも評される自国の輸出信用・食糧援助についてはまったく触れていない)、交渉の成功には農業補助金の削減と関税切り下げでの前進が不可欠と述べている。農業界のスタンスの変化は、ゼーリックの交渉のスタンスに複雑な影を落とすだろう。

 米国の高度に保護主義的な砂糖政策(輸入規制と生産者国内助成)は、WTO農業交渉の進展の大きな障害の一つである。ファームビューローの政策変化は、その自由化への障害が一段と高くなったことを意味する。他方、10%の巨大農場が65%の農業補助金を受け取っているという巨大農企業への巨額な補助金支出への国民の反感も強い。最近の世論調査では、大農場への補助金支出を支持するものは31%にとどまる。これはゼーリックへの追い風になるかもしれない。だが、小農場への補助金は77%が支持している。農業補助金支持の根拠は、安い食料品価格・米国産食品の品質・米国農民の競争力の維持である。大半の米国国民が望んでいる農業政策は、どうやらEU型のものと言えそうである。

 そのような政策転換が近いに実現するとは考え難い。従って、農業界の政策転換がWTO農業交渉に直接の影響を及ぼすとも考え難い。だが、中長期的に見れば、現在のような政策の維持はますます困難になるだろう。それは、貿易政策においても、手放しの自由化とは一線を画するEU型の自由化路線への接近を生むことになるかもしれない。

農業情報研究所(WAPIC)

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