CAFTA交渉妥結、コスタリカは離脱、米議会承認にも高いハードル

農業情報研究所(WAPIC)

03.12.18

 難航していた米国と中米諸国の自由貿易協定(CAFTA)交渉が年内妥結の目標をようやく達成した(USTR Press release:U.S. & Central American Countries Conclude Historic Free Trade Agreement: Tariffs and Trade Barriers to Be Phased Out in Cutting Edge Pact Designed to Promote Economic Growth and Expand U.S. Opportunities in Important Regional Market )。繊維貿易をめぐる交渉が最後まで難航、年内妥結の見通しが遠のいていたが、16日から17日にかけての徹夜の交渉で決着がついた。だが、米国輸出企業にとっての地域最大の市場・コスタリカは、とりわけ米国の電気通信・保険部門の独占廃止・自由化要求に抵抗、16日に突如交渉から離脱した。米国は来年早期の再交渉に希望を抱いているが、そうでなくても困難が予想される米国議会による協定批准は一層難しくなるだろう。

 協定の詳細は未だ発表されていないが、工業製品関税は10年かけてすべて撤廃、農産物保護は最長20年をかけて段階的に廃止、中央アメリカ諸国は、大部分の経済部門の規制撤廃と米国の特許・商標・複写権の強力な保護を実施することになる。

 工業製品については、米国の80%の輸出品目に課せられる中米諸国の関税が協定発効と同時に撤廃される。残りは10年かけて段階的に撤廃する。米国企業は、情報技術製品、農業・建設設備、紙製品、化学品、医療・科学設備など、主要輸出部門で大きな市場アクセスを勝ち取った。

 最大の争点の一つであった農産物については、酪農品などの「センシティブ」な農産物の関税は20年で段階的に廃止することで合意された。これは原則10年で関税を撤廃しなければならないというWTOのルールをはるかに超えるものだ。WTOルールでは、10年を超える場合には納得のいく説明が義務付けられている。NAFTAにも15年かけて撤廃する品目が含まれたが、20年は余りに長すぎる。この間にどんな経済的・社会的・政治的変動が起きるかわからない。協定などないも同然だ。こんな協定をWTOの審査が許すなら、WTOのルール(ガット第24条)も無意味だ。さらに、協定批准の最大の障害となる米国砂糖農民の反対を回避するために、砂糖関税は維持するものとされた。引き換えに、中米諸国の小農民を保護するために、ホワイト・コーンの関税も維持されることになった。これらは割当を増やすにとどめる。

 やはり最大の争点の一つであった繊維については、米国政府は、米国織布を使わないかぎり、中米の大規模衣料品生産者の米国への無税輸出を制限すべきという繊維産業からの圧力にも屈した。FTAに特有の原産地規則が、ここでも関税廃止の効果を大きく損なうことになる。

 米国が農業や繊維の市場開放への強い抵抗にもかかわらずFTAを強行するのは、相手国のサービス市場開放が米国企業に巨大な利益をもたらすと考えるからだ。米国は、最大の目標であったこの分野の中米市場開放を勝ち取った。中米諸国は、電気通信、速達便、コンピュータ、ツーリズム、エネルギー、輸送、建設、エンジニアリング、金融、保険などの市場を開放、米国企業の大儲けを許すことになった。

 ただし、最大の市場・コスタリカは離脱した。来年の再交渉の可能性が残るとはいえ(コスタリカと米国は、農産品、繊維、サービス産業に関する貿易ルールで厳しく対立、コスタリカ貿易相は、国に帰って協議すると席を立った)、コスタリカには電気通信・保険市場開放は容易に約束できない国内政治状況がある(⇒コスタリカ、米国とのFTA延期の脅し、米国FTA戦略に暗雲,03.10.14)。再交渉も実を結ばない可能性は非常に高い。そうなれば、サービス産業のCAFTA支持は弱まり、農業・繊維産業の保護主義が米国議会を制する可能性が高まる。CAFTAの議会承認は困難を増す。

 米国政府は、議会承認を勝ち取るために、来年の早い時期に、ドミニカ共和国もCAFTAに追加するつもりでいる。それによって、ドミニカからの大量移民を抱えるニューヨークの民主党議員の支持を得ようというのである。だが、これも大した力にはなりそうもない。ファイナンシャル・タイムズ紙は、貿易問題投票でしばしばカギを握るマックス・ボーカス民主党上院議員が、交渉決着の発表を受け、協定の発表は「時期尚早」、「交渉成功を宣言するには余りの多くの重要問題が残っている」と語ったと伝えている。彼は、環境保護と労働権に関する条項は不適切と言う。

 米国内市民・労働団体のCAFTA反対の声も高まるばかりだ。先週、オックスファム・アメリカ、全米労働総連合(AFL−CIO)、ラテン・アメリカ・ワシントン・オフィス(WOLA)、ワールド・ビジョン、ヘルスGAPや20以上の米国教会グループがCAFTAと闘うと宣言した。これらの反対の多くは、他国の農業部門を犠牲に米国農民を保護し、米国企業の身勝手な要求を押し付け、環境・健康・労働権の保護を怠った米国の歴史から来る。

 CAFTAはNAFTAをモデルとしているが、いくつかの最近の研究は、NAFTAはメキシコの数百万の貧民の生活を改善しなかったし、カナダと米国の労働者の仕事を奪ったことを示した。これらグループは、CAFTAも同様な誤りを犯すことになる、多大な社会的コストを生むと主張している。

 交渉妥結の発表を受け、ラテン・アメリカの人権問題をめぐる米国政府の政策論争で中心的役割を演じてきたNGO・WOLAは、CAFTAは62%の人々が一日2ドル以下で暮らす地域に必要な開発戦略ではない、それは地域の最貧困層である小農民を傷つける、中米諸国政府に「経済的・政治的拘束服」を着せることで地域に芽吹きつつあるデモクラシーを弱めると批判する(CAFTA Deeply Flawed, Disastrous for Small Farmers and Workers, Human Rights Group Says)。

 今回の交渉妥結は、FTA最優先の貿易政策を打ち出したブッシュ政府が勝ち取った最初の成果だ。だが、議会承認のメドがまったく立たないのでは、貿易政策転換の成功を言うのは早すぎる。最大の目標である米州自由貿易協定(FTAA)交渉は成否のメドが立たない。オーストラリア、モロッコとの交渉も越年が決まった。来年は選挙の年、これら協定の議会承認のチャンスはますます遠のく。米国FTA戦略は躓く可能性が高い。

 現在、先進国でFTAに血眼になっているのは、日本を除けば米国とオーストラリアでしかない。その両国とも立往生している。最大のネックは農業だ。韓国も農業が障害となって、チリとのFTA批准が立往生している。日本とメキシコのFTAは、やはり農業が原因で交渉が立往生している。FTAでは農業貿易は自由化できない、国内農業補助金の削減・撤廃はなおさらできない。ということは、先進国と途上国・農業大国とのFTAは利益が少ないばかりか、そもそも不可能ということだ。無理矢理結べばメキシコの悲惨が待っている。FTAは世界の流れなどという日本を覆いつくす論調は、いったいどこから出てくるのだろうか。いったい何をみているのか(途上国間―中国を含む―のFTAは、名前はFTAでもまったく異質のものだ)。

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