EU、南米共同市場(メルコスル)への譲歩でCAP反対派分裂を狙う

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.15

 EUは、ドーハ・ラウンドへの支持を獲得するために南米共同市場(メルコスル)との自由貿易協定交渉で大幅に譲歩、共通農業政策(CAP)反対派を分裂させようとしている。14日付のフィナンシャル・タイムズ紙(*)がそのように報じている。メルコスルに対して今週行う提案で、特恵的譲許の提供と引き換えに、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの貿易障壁を引き下げよというEUへの圧力を緩和することを狙う。提案が受け入れられれば、オーストラリアを盟主とする農産物輸出国のケアンズ・グループやブラジルが主導するG20グループが分裂することになるかもしれないという。

 今年中の合意が期待されるEU−メルコスルの自由貿易協定の中心的要素をなすこの提案は、農産物貿易障壁をEUがどのように引き下げる用意があるかを初めて述べたものとなる。メルコスルがEUに対して工業品貿易障壁を引き下げ、投資を自由化し、サービスと公共調達を解放すれば、メルコスルのEUへの輸出アクセスを改善するというこの協定だが、EUは、メルコスルがドーハ・ラウンドで農業自由化への圧力を控えれば、一層のアクセスを保証、さもなければ追加譲歩はしないと言う。ブラジルのEU大使は、計画は「非常に革新的」で、CAPを「合法化」できると言っている。

 提案内容の詳細は明らかにされていないが、交渉担当者の示唆するところでは、総農産物貿易のおよそ3分の1で譲許する。輸出補助金廃止問題はドーハ・ラウンドで交渉するとして除外する。牛肉、砂糖、酪農品などの政治的に最も微妙な品目では、関税割当の拡大で限定的なアクセス改善を図る。この提案はケアンズ・グループとG20の両方に属するチリやタイなどを怒らせることになると予想されるが、ブラジルのEU大使は、EUへの輸出が少ない中国やインドの反対は予想されないという。

 しかし、このような提案はEU内では農業者の猛烈な反対を覚悟せねばならないだろう。EU諸国の有力農業者団体で構成するヨーロッパ農業者協会(COPA)は、今年3月のEU農相理事会に際し、メルコスルとの交渉で性急な譲歩をしてはならないと要求している。それは、サービスや公共調達でメルコスルの譲歩を勝ち取るために農業でさらなる譲歩をすることは容認できない、ヨーロッパは既に他の先進国以上に途上国に譲歩していると言う(**)。だが、輸出補助金全廃の用意があるとまでほのめかして、何としてもドーハ・ラウンドを成功させようとする欧州委員会の最近の姿勢からすれば(EU、すべての輸出補助金撤廃を議論の用意、WTO農業交渉に弾みとなるか,04.3.24)、農業者団体の圧力も効を奏するか可能性は少ないかもしれない。

 * Brussels plans trade cocessions,Financial Times,4.14,p.1
 **COPA President warns against hasty concessions in EU-Mercosur negotiations(04.3.26)

農業情報研究所(WAPIC)

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