国連貿易開発会議、2003年貿易開発報告に伴なう報道発表

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.6

 昨日伝えたように(⇒国連貿易開発会議、貿易志向政策に痛撃―自由化よりも国内産業発展が重要、国連貿易開発会議(UNCTAD)が「2003年貿易開発報告」を発表した。以下、同時に行なわれたとくに途上国に関係する3本の報道用公式発表(Press Release)を紹介する。

目次

1.「早熟な脱工業化」がラテン・アメリカの成長の可能性を害している

2.UNCTAD報告、世界景気減速の途上国への影響の非常な不均等を示す

3.市場に牽引されたグローバリゼーションの発展記録は政策再考の緊急の必要性を示す

 

1.「早熟な脱工業化」がラテン・アメリカの成長の可能性を害している

 1980年代初期の、国際金融諸機関の支援を伴なった債務危機以来、ラテン・アメリカの経済政策は、価格安定化と、市場の力により大きな役割を与えることによる国際資本回帰に焦点を当ててきた。しかし、UNCTAD事務局長のルーベンス・リクーペロは、今日発表された「2003年貿易開発報告」の概観部分に、「成長・雇用・貧困削減に関する記録は期待はずれのものだった」と書いている。彼は、問題の多くの部分は、「投資家と企業に生産能力の創出・拡大・改善を促すための適切なマクロ経済的環境を生み出し、同時にグローバル競争勢力を解放する」新たな政策指向の失敗にあると言う。

 報告は、改革の20年後、多くの国が初期の危機の要因となった国際収支と負債の問題に直面していることを示している。報告は、次のような多くの経路を通じての政策の失敗を追跡している。

 ・資本流入に依存する為替相場安定政策は通貨の過大評価と不安定、高利率につながり、資本形成を損なう結果をもたらした。通貨の条件は、90年代全体を通じ、ラテン・アメリカでは余りにタイトで、不安定であった。

 ・急速な貿易と金融の自由化は対外収支の急速な悪化を引き起こした。また、輸入が急増し、利払いが増加したことから、負債額の増加が対外的ショックに対する脆さを増幅させた。

 ・対内直接投資は、必要な技術と技能をもたらすときでさえ、金融不安定の要因となった。

 ・高利率は、政府が支出を削減した場合でも、財政収支を害してきた。

 報告によれば、ラテン・アメリカにおける投資環境へのネガティブな影響ははっきりしている。債務危機以来の長引く「投資休止」のために、大部分の国の投資率はGDPの20%ほどにとどまっており、キャッチ・アップ成長を達成するために必要なレベルを大きく下回っている。GDP中の公共投資のシェアの低下にもかかわらず、民間投資が押し寄せることはなかった。外国直接投資の引き付けに成功した場合でも、資本蓄積の触媒としては作用しなかった。GDPに占める外国直接投資の比率は90年代に1.7%上昇したが、全体の投資は0.6%減少した。

 債務危機の後に速やかに工業化が続いた東アジアと異なり、外資依存を深めながらなされたラテン・アメリカの急速な自由化は、構造変化と技術的向上に関して高い代償を払うことになった。報告によると、多くの国は「早熟の脱工業化」に悩むことになった。技術的に洗練された部門を建設する努力は深刻なダメージを受け、同時に労働集約産業の生産性の伸びが弱く、低賃金諸国との競争が激化した。さらに、報告は、国際競争と外国直接投資への急速な開放が、機械器具産業など、最大の生産性成長・技術進歩の潜在力をもつ部門から、自然資源生産・加工部門へ、生産をシフトさせることになったことを発見した。通貨高で製造業の競争力が深刻な損害をこうむった多くの国で、成功した輸出は、ほとんど専ら米国市場向けに生産するマキラドーラ型の低熟練組み立てと、資本集約的な資源ベースの産業に限られる。

 報告は、「新たな政策の方向づけは以前の体制の根絶には成功したが、それに代わる活力ある体制の確立には失敗した」と結論する。金融市場は政策選択と、伝統的政策手段を中立化させる予算構成と対外勘定の変化を凝視しており、報告はいかなる方向転換についても速度と持続性を疑っている。低く不安定な成長、高利率、負債額増加の悪循環からの脱出手段を提示する勧告は、とくに次の点を強調している。

 ・利率レベルを現実の投資利回りに近づける再交渉を含む負債利払い負担を減らすための直接的行動と、国内・対外債務の成長を阻害しないレベルへの削減。

 ・外資依存を減らし、国際収支の拘束を和らげるように、より強力な投資−輸出の連結を築くための努力を強めること。このような目標への外国直接投資の寄与を改善する方法も発見されねばならない。

 ・投資と改良を支援する一層戦略的な政策と工業支援・技術進歩・公共インフラストラクチャーの分野での積極的政策。

2.UNCTAD報告、世界景気減速の途上国への影響の非常な不均等を示す目次に戻る

 2002年の途上国の平均成長率は3.3%で、前年を上回りはしたが、90年代の5%には遠く及ばない。しかし、大きな特徴は地域的な差違である。UNCTAD報告は、地域や国により様々な外的ショックに対する脆さが異なるだけでなく、今日のグローバル化した世界を特徴づけるますます不安定化する経済条件に対処する準備においても違いがあることを指摘する。

 弱い世界の需要の継続とSARSにもかかわらず、アジア経済は今年、マクロ経済と国際収支が一層拡張的な通貨・財政政策を可能にしたために、力強く回復した。報告によれば、「地域の主用経済における需要の拡大が成長への独立の動因を提供し、それは地域統合と国際貿易の拡大によりさらに後押しされた」。今年、SARSはもっと増えそうであり、現在の動きは将来の見通しを一層不確実なものにするが、2003年以後も、アジア途上国は最高の成長が予想される。

 報告は、多くはブラジル経済の脆さの克服にかかっているとはいえ、2002年のラテン・アメリカの成長の縮小は、今年は反転するだろうと予測する。大部分の経済は国際収支逼迫に直面しているから、弱い世界需要に拡張的政策措置で対応できる国は少ない。報告は、「これらの国では、世界景気の下降は対外的金融困難を悪化させ、マクロ経済政策は経常収支赤字減らしと金融市場の安定に焦点を当てた」と述べる。結果的に、国内需要は景気変動増幅的(pro-cyclical)な通貨・財政政策により形成された。有利な政治的条件と利益さや取り機会が重なって短期資本が引き付けられたところでさえ、回復は弱そうである。そして過去同様、これらの資本流入に続く通貨過大評価が鋭く、突然の逆転の引き金を引く可能性がある。

 気候及び政治的要因が経済パフォーマンスに大きく影響するアフリカでは、世界経済の下降は穏やかな影響しかもたないように見える。多くの商品価格の低迷はしばらくは続くと予想されることから、報告は過去2年のパフォーマンスを越えることはありそうもないと予想、ほんの一握りの国だけが7%、あるいはそれ以上の成長を経験するだけと見ている。

 市場経済移行国の昨年の成長率は、EU加盟候補の東欧諸国への資本流入と一部CIS諸国の石油収入増大により刺激された国内需要の拡大のために、4%に達した。しかし、成長は対外的拘束の緩和に伴なうもので、残りは資本流入に依存している。報告は、「これはしばしばラテン・アメリカの金融不安定の前兆であった」と警告している。

3.市場に牽引されたグローバリゼーションの発展記録は政策再考の緊急の必要性を示す目次に戻る

 過去20年間、貧困国における健全な経済ファンダメンタルの探求は、すべて、国家に牽引される内向的成長戦略を市場に牽引される外向的戦略に置き換えることであった。多くの好結果が約束されたが、報告によれば、インフレ排除と公共部門縮小を追求する政策が、しばしば成長を妨げ、技術進歩を阻害した。UNCTAD事務局長のルーベンス・リクーペロは、結果として、「途上国の現在の経済景観は、80年代初期に広がった条件と気味悪いほどに似ている」と言う。このとき、多くの国が深い危機に沈んだ。

 報告がGDPの20%から25%と推定するキャッチ・アップ成長のための投資の目標レベルは、急速な市場改革を行なっている大部分の国が逃している。対照的に、債務危機の後の東アジアにおける政策の継続は、強い投資パフォーマンスを生み、製造業付加価値と雇用を増加させ、製造業輸出シェアの上昇を生んでいる。先導的工業国との生産性と技術のギャップは急速に縮まっており、そこから地域の統合が生じる。他の地域の記録はそれほど勇気づけるものではない。

 ・工業の進歩は多くの途上国で停止した。1980年から1990年代までの間に、GDPにおける製造業付加価値のシェアを投資のシェアとともに伸ばした国は、選ばれた26ヵ国のうち、8ヵ国にすぎない。

 ・工業化が遅れ、投資のシェアが落ちている経済では、輸出全体に占める製造業のシェアも停滞するか落ちる一方、為替レート引き下げと賃金抑制が貿易パフォーマンス向上の基礎となっている。

 ・多くのラテン・アメリカ及びアフリカの生産構造は、生産性向上の最大の潜在力をもつ部門から、原料生産・加工部門にシフトした。

 ・国際的生産ネットワークを背景に貿易と投資が上昇したところでは、輸出品の技術内容の外見上の増加は、類似の国内付加価値の増加を伴なっていない。

 アジアでは、一握りの「成熟工業化地域」がハイテクとサービスに重心を置く発展パターンにシフトし、工業化を支える自然資源と労働予備軍の近隣諸国による利用の余地を広げている。対照的に、多くのラテン・アメリカ及びアフリカ諸国では、急速な自由化が製造業産出と雇用の衰退(「脱工業化」)を伴なった。この中に国際生産チェーンにリンクされた工業化の「飛び地」があるが、多くの場合、一層広範な投資・付加価値・生産性成長に結びついていない。

 報告は、東アジアでは、投資を刺激し、工業改良を目指し、輸出を奨励するために、広範なマクロ経済・金融・貿易政策が使われている。ラテン・アメリカとアフリカの多くでは、対照的に、自由化のビッグバンが構造変化を歪め、技術進歩を妨げるマクロ経済・貿易・外国直接投資・金融政策間の不整合につながった。また、ラテン・アメリカのいくつかの成功部門がネオリベラルなモデルとは相容れない選別投資政策の恩恵に浴している事実も見つかった。

 報告は、ネオリベラルな改革の「第二世代」が事態を後ろに引っ張りはじめると恐れている。しかし、過去の容易な工業化政策に後戻りさせるつもりはない。リクーペロは、「選択の再考は、過去20年間の経済記録と成功した工業化・開発のケースの率直な評価を必要とする」と書いている。また、それは、条件の多様性と途上国が直面する課題を調整する一般的アプローチから離れることを必要とする。

農業情報研究所(WAPIC)

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