米通商代表が交替 米国府はドーハ・ラウンドから撤退?

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.20

 4月18日、ブッシュ米国大統領がポートマン通商代表をホワイト・ハウス予算局長に指名、シュワブ次席代表がそのあとを継ぐと発表した。農業分野を始め、ドーハ・ラウンドの主要分野の交渉のモダリティー確立の最終期限を4月末に控えての交渉指導者の交替は、2007年連邦支出案に対する議会の抵抗を和らげることを最優先し、貿易政策の優先順位を下げる動きではないか、米政府がドーハ・ラウンド撤退の意思を鮮明にしたのではないかと見られている。

 ドーハ・ラウンド、あるいは二国間交渉の難航は、もはや有力議員が交渉から撤退せよと示唆するまでに米国議会の自由化交渉への抵抗を高めている。交渉の成否は、米政府が議会をどこまで説得できるかにかかっている。通商交渉権限は議会にあり、その承認がないかぎり、すべての交渉結果が意味のないものになってしまうからだ(米有力議員 ドーハ・ラウンド見切り FTAに全力を注げと政府に注文,06.4.4;最小限の補助金・関税削減協定は審議拒否と米議員 現実的目標をとOECD貿易局長,06.4.8)。ところが、このような議会を説得する最大の力を持つと見られるポートマン氏が通商代表の座を降りた。議会説得は難しくなり、従って交渉成功の見込みは一層遠のいたというわけだ。

 ファイナンシャル・タイムズ紙によると、ポートマン氏は、ドーハ・ラウンドを妥結に導き、大統領の貿易政策への議会の支持を立て直すために通商代表の地位に就いた。彼は、かつて共和党議員を3期にわたり努めた。共和党議員の間での人気は高く、議会説得にはうってつけだ。後任のシュワブ氏も議会との強力なコネはあるが、前任者ほどの政治的地位はもたないという。

 下院歳入小委員会委員長のクレイ・ショウ共和党議員は、「ドーハ・ラウンドが失敗の運命にあるならば、彼の非凡なタレントをどこで使うのが最善かを探るときだろう」と言う。

 共和党の主導的戦略家の一人は、「いまや貿易自由化の展望をめぐるたいへんな消極論(negativism)がある。二国間協定とドーハ・ラウンドの放棄の感がある」と言う。

 US reshuffle signals downgrading of trade policy,FT.com,4.18.
 http://news.ft.com/cms/s/067476e4-cede-11da-925d-0000779e2340.html
  Personnel changes raise doubts about US commitment to Doha round of trade talks,Financial Times,4.19,p.5.

 議会だけではなく、米政府もドーハ・ラウンド撤退に動き始めたようだ。ドーハ・ラウンド破産が見えてきた。

 マンデルソンEU通商担当委員は、「もちろん、彼(ポートマン)がいなくてもなんとかやれる。だが、ラウンドのこの段階では彼と一緒の方が容易にやれる」と言う。国際経済研究所のジェフリー・スコットは、米国交渉官の交替は、「ラウンドが今年中に終わることは高度にありそうもないことを確認する」ものと言う。ということは、ラウンド妥結後の困難な議会承認過程を考えれば、ラウンド成功が「高度にありそうもない」ということだ。

 Hopes for Trade Talks Dim After Personnel Switch,The Wasingron Post,4.19
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/04/18/AR2006041801488_pf.html

  いまや、多角的貿易システムをいかに守るかが問題だ。