農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2011年11月15日

すべての物品とサービスをTPP交渉のテーブルに 言った言わないの首相発言論争 言わなきゃ交渉参加はあり得ないのに

  ハワイでの日米首脳会談で、TPP交渉参加に関して、野田首相が「すべての物品とサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる」と言ったとか言わないとか、政府、政界、マスコミが振り回されている。ホワイトハウスが12日、「すべての品目とサービス分野を貿易自由化の交渉テーブルに載せるとの野田首相の発言をオバマ大統領は歓迎した」と発表したのが発端だ。これに対し、日本外務省は「事実無根」と抗議、米側もそういう発言はなかったと認めたが発表文を訂正しない。それはそうだろう。そうでなければ、日本の交渉参加を断るしかない。日本政府ももう済んだことと、訂正は求めないそうである。

 しかし、民主党内のTPP反対派も野党もそれでは収まらない。毎日新聞によると、

 「同党の輿石東幹事長は14日の記者会見で、TPPについての両院議員懇談会を来週、首相出席で開催する方針を表明。「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦前農相は、記者団に「全ての物品、サービスを交渉に載せる、と首相が本当に言ったなら大変なことだ」と、懇談会で首相を追及する考えを示した。

 これに対し、推進派の鉢呂吉雄前経済産業相は同日の会見で「各国とも2国間FTA(自由貿易協定)で例外品目の農産品を抱えている。TPPで全て関税が撤廃にはならない」と、火消しに躍起となった。 

 野党は、日米の説明の食い違いなどを「二枚舌だ」(自民党幹部)と批判、衆院予算委員会の集中審議開催などを要求し、首相に真偽を問いただす方針だ」(TPP:交渉参加問題 米と調整不足露呈 首相発言説明巡り、民主の反対派攻勢)と大騒ぎである。こうした騒動にマスコミもいちいち付き合っている。情けない話である。

 外務省は14日に自民党本部で開かれた同党外交部会で、「「例外・除外を前提とした参加が認められないのは、交渉の前提だ」と述べ、原則として全項目が交渉対象となるとの見通しを示し」たというが、これが正しい認識だ。「朝日新聞の取材では、野田首相は、重要品目に配慮しつつ、全品目を自由化交渉の対象にする、とした昨年の政府方針に言及。「この基本方針に基づき、ハイレベルな経済連携を目指す」という内容の発言をした」(米側、TPPの発表文は正確「修正しない」 日米会談)ということだが、これが本当なら、首相は「例外・除外を前提とした参加が認められない」という基本的認識さえ持たずに交渉参加を求めていることになる。外務省はそんなことでは交渉参加はできませんと首相を諌めるべきだろう。

 ところが、推進派も反対派もマスコミも、まだ例外が認められる可能性があると幻想を抱いている。しかし、そんなことはあり得ない。

 マスコミは、TPP交渉参加9ヵ国首脳会合の共同声明(Trans-Pacific Partnership Leaders Statement,USTR,11.12)が「なお交渉を要する国ごとに異なるセンシティブな問題があることを認める」としている点をとらえ、まだ例外が認められる可能性はあるなどと世人を惑わす。しかし、その一文の後に続くのは、従って 「我々は、我々の発展のレベルの多様性を考慮に入れ、包括的でバランスの取れたパッケージの文脈でこれらの問題に取り組む方法を見つけ出さねばならない」という文言だ。日本のような「発展のレベル」が高い国の「物品貿易」について例外が認められるという解釈は甘すぎる。昨日も述べたように(TPP協定の大要発表 関税撤廃は例外なし)、仕上げ途上の法的テキストが例外・除外を認めているのは、サービス・投資と政府調達の分野においてのみである。

 物品貿易について例外が認められないのは、乳製品部門の自由化に応じないために(ニュージーランドの強硬な主張で)門前払いをくったカナダの例がはっきり示している。そのカナダは、日本が交渉参加の意向を示したことを受け、米国オバマ大統領と相談の上、ハーパー首相が突如、国際貿易相さえ寝耳の水という交渉参加を表明した。首相は、知的財産権の一層の強化、米国の物品・サービス・投資への一層の機会の提供、さまざまな非関税障壁の撤廃などの米国の要求に応えるとともに、北米自由貿易協定でも認めることがなかった乳製品市場の完全自由化と関税撤廃に踏み切る覚悟を決めたのだろう。

  日本が米を犠牲にしてもというなら、カナダが酪農を犠牲するなどお安い御用、というわけだ。「カナダの酪農民は―全部合わせて1万3000人―は、日本の米農民よりうるさくはない」(ジョン・マンリィ前財務相)。 日本の交渉参加表明でカナダ酪農民もとんだとばっちりだ。米国も、米豪自由貿易協定で飲まなかった砂糖関税の撤廃や乳製品自由化を受け入れざるを得ないだろう(米豪FTA交渉合意、今後の自由化交渉を象徴―米国砂糖保護は不変,04.2.11)。 そうしなければ、TPP妥結は来年のアメリカ大統領選挙に間に合わない。

 Canada under pressure to dismantle food quotas,FT.com,11.14
 
No guarantees on Pacific trade, despite Harper's 180,Globe and Mial,11.14