農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2013年10月18日

EU−カナダ貿易協定 合意近し EU−米国協定やTTP協定の雛形にもというが

 マスメディアが伝えるところによると、4年前に始まり難航していたEU—カナダ貿易協定交渉がゴールに近づいた。カナダのハーパー首相とEUのバローゾ委員長がブリュッセルで今日会談、難航分野に最終決着をつけ、合意内容を明らかにする。

 この合意は交渉が始まっているEU−米国環大西洋貿易投資協定(TTIP)にも影響を与えるだろう。EU−カナダの交渉は、EUはGMO(遺伝子組み換え体)を絶対に受け入れず、カナダ農民は断固牛肉・豚肉のEU市場アクセス拡大を要求するなど、TTIPで厳しい対立が予想される分野の交渉の”リハーサル”として役立つ。カナダは、この合意がカナダ—韓国、カナダ—日本の交渉の進捗につながり、協定が環太平洋パートナーシップ協定(TTPA)の雛形となることも期待しているという。

 交渉のデッドロックを打ち砕いたのは、EUがカナダ産生鮮牛肉の無税輸入枠を増やし、カナダが自国農民が猛反対しているEU乳製品の無税輸入割当増加を許すという農産分野での妥協である。

 EUはTTIPで激突が予想されるGMOやホルモン牛肉に対する厳しいスタンスを維持、米国との交渉で同様に難航が予想される政府調達分野ではカナダとカナダ諸州の政府調達市場開放を勝ち取った。さらに、EUが強くこだわる「地理的表示」の保護でも、既にカナダ市場にある製品については例外扱いとする妥協がなった。

 カナダはEUのチーズの無税輸入枠を年3万トンに倍増させることを容認した。政府は、これはカナダのチーズ総消費量のほんのわずかな部分をなすにすぎないと弁明する。その代わりに、牛肉と豚肉のEU無税輸入枠の大幅拡大を勝ち取った。EUへの牛肉・豚肉年輸出額は10億ドルの増加が見込まれる。

 カナダは自動車でも大きな戦果を上げた。昨年、カナダはEUから11万4000台輸入したが、EUに輸出したのはたったの1万3000台だった。しかし、この交渉ではEUが大幅譲歩、最低10万台のカナダ車無税輸出を認めた。その最大の受益者はカナダに工場を持つデトロイトのビッグスリー(ゼネラルモーターズ、フォード、クライスラー)だ。これは日本の自動車メーカーの抗議を引き起こしたという(自由・無差別・互恵を原則としたWTOの下での多角的交渉を放棄し、「地域限定排他的貿易協定」―浜矩子氏―の大波に身を投じた以上、これは当然甘受せなばならないことだ。ご利益に与かりたいならカナダに進出するしかない)

 EU and Canada on verge of trade deal,FT.com,13.10.18
 EU and Canada close to trade accord after compromise farm export,Financial Times,13.10.l8,p.4

 EU trade deal opens doors for exporters,Globe and Mail,13.10.17

 Canada, EU close to sealing trade deal with concessions on cheese, beef,Globe and Mail,13.10.17

 これをTTPAの雛形にといっても、さて、日本は何を勝ち取るのだろうか。カナダとEUは、お互いに得るものと失うもののバランスが取れたのかもしれない。しかし、TTPAにおいては、日本は得るもの(自動車等のわずかばかりの輸出増大と多少の対外投資促進・・・)があまりに少なく、失うもの(農業と国民の暮らしそのもの)が多すぎる。バランスを取るのは不可能にさえ見える。