農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2014530

ベトナム等の労働基準改善を強制できないTPPはお断り 米下院民主党議員153人がフロマン通商代表に

 153人の米議会下院民主党議員が昨29日、フロマン米通商代表にTPP交渉で労働者の権利を保護せよと迫る書簡を送った。

 http://democrats.edworkforce.house.gov/sites/democrats.edworkforce.house.gov/files/documents/5.29.14-TPPLettertoFroman.pdf

 書簡は、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、メキシコを結社の自由や団体交渉への権利を奪われ、あるいは著しく制限された国と名指し、労働者が極度の虐待を受けているこれらの国では、国の法律と慣行をTPPが定める労働にかかわる要件に従わせる「拘束力があり・執行可能なプラン」がなければならない、これは議会がTPPに味方する最低限の要件であると言う。

 それは、「我々は人間の尊厳と個人の権利を奪われて働く労働者により製造される輸入品が米国市場に溢れるのを防ぐために可能なあらゆることをなさねばならない。政府は、悲惨なまでに不敵当な労働基準を認めてはならず、これらの国がそれぞれの労働法を改革し・その実施に向って攻撃的に動く必要性を了解する(embrace)まで、最終合意は控えるべきである」と述べる。

 つまり、議会がTPPに味方するためには、TPPのテキストに国際労働基準の遵守を確保するための労働条項を含ませるだけでは足りない、これら4ヵ国については強力で実行可能な改革計画も必要だということである。

 この書簡は、とりわけ、今年116日に行われた議会ヒアリングでの全米自動車労働組合(UAW)会長の「超党派議会貿易優先法案」(ファストトラック法案)反対の発言の意を汲んだものであろう。

 この発言の労働問題に関する部分の要旨は次のようなものであった。

 ・TPP@米国製造業雇用の維持と拡大、A労働権の承認と保護、B強力な環境基準の執行という三つの基本的目標を含まねばならないが、現在のTPP交渉はこれらに適切に取り組んでいない。

 ・UAWの立場は過去の貿易協定の経験から導かれるものである。強力で執行可能な労働および環境保護を欠いた北米自由貿易協定(NAFTA)は中産及び労働階級に恐るべき影響を与え、企業が製造業雇用を海外に移す誘因となった。NAFTAにより、米国の70万の雇用が失われた。メキシコでは200万の生業的農民が土地を追われた。メキシコの製造業雇用は増えたが、その労働基準は低く、企業は労働者を搾取できるメキシコに生産を移転することになった。

 TPPでは、低賃金で、労組を自由に作る権利がなく、児童労働もあるベトナムの労働基準の改善が保証されねばならない。国内と国外で差がある日本の労働基準のダブルスタンダードも問題だ。日産米国工場では労組の結成が妨害されている。日本との協定は中産階級を害し、国中の労働場所の閉鎖につながる恐れがある。

 ・協定により職を失う労働者を救済する「貿易調整援助及びヘルスケア税額控除」の復活も必要だ。

 http://www.citizen.org/documents/UAW-statement-opposing-fast-track-january-2014.pdf

 日本では畜産物、特に豚肉関税にかかわる日米交渉の成否がTPP大筋合意の鍵を握っており、妥結を急ぐ日本政府が大幅譲歩で行き詰りを打開しようとしているなどという情報が乱れ飛んでいる。お陰で畜産農家は、いまから生きた心地がしないだろう。しかし、そんなことで気を揉むことはない。米国の通商交渉権限を握る米議会の死活的に重要な関心事項は日本の農産物関税ではない。日米協議の決着がTPP全体の大筋合意に直結するわけでもない。年内合意も日本政府の希望にすぎない。

 甘利担当大臣は525日、「各国が年内合意を目指す認識を共有している」と言ったそうだが(甘利氏、「年内合意」の認識共有 TPP交渉で参加各国 47news 14.5.25)、マレーシアのナジブ首相は日経国際交流会議・アジアの未来(522-23日、東京)出席後、「重要なのは期限ではなく中身だ。中身は二つの目標に合致せねばならない。それは自由貿易を促進し・経済成長と投資を加速することと、わが国の主権を維持することだ。我々はこれら二つの原則を維持する、それはTPP協定で危うくされてはならない」と述べている。

 Najib: We won’t be obsessed with TPP timeline,New Straits Times,14.5.22

 中身より期限を重視しているように見える日本政府とは大違いだ。マレーシアは、労働など、まさに主権にかかわる中身で簡単に譲ることはないだろう。