農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力>ニュース2018年9月28日

日米農産品市場アクセス交渉 牛肉だけではない 米農業を揺さぶる恐れ

6日午後(日本時間27日未明)、ニューヨーク市内のホテルで行われた日米首脳会談で、2国間の「物品貿易協定」(TAG)の交渉開始で合意した。

日米首脳会談、物品貿易協定の交渉開始で合意 JETRO 18.9.27

交渉の焦点は米国の輸入車への追加関税と日本の農林水産品市場アクセスととされる。両国政府が発表した共同声明によれば、

TAGは双方の利益をめざし、交渉にあたって以下の両政府の立場を尊重する。

日本は農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること。

米国は自動車について、市場アクセスの交渉結果が自国の自動車産業の製造及び雇用の増加を目指すものであること」とされている。

これを受け、日本自動車工業会の豊田章男会長は、「協議中は追加関税が発動されない状況となったことを歓迎する」と、今回の日米首脳会談での合意を歓迎するコメントを発表したそうである(トランプ流に不安感 自動車業界・農業界 毎日新聞 18.9.27)。

他方、「全国農業協同組合中央会(JA全中)の中家徹会長は27日、「現場の不安を助長しないよう、交渉過程では可能な限り透明性確保を徹底してほしい」とする談話を発表。安倍政権に今後の交渉過程を説明するように求めた。

 北海道更別村の酪農家、出嶋辰三さん(60)は「日本政府は『日米FTA(自由貿易協定)はやらない』と言ってきたが、事実上のFTA交渉になった。米国第一のトランプ大統領が得意とする2国間交渉の土俵に乗って、本当にTPP以内にとどめられるのか。離農が加速すれば、国内農業は立ちゆかなくなる」と先行きを不安視する」という(毎日新聞 同上)。

農業界、当然の反応である。鈴木宣弘東大教授は、「米国はTPPが不十分だからこそ離脱して二国間交渉を求めた。TPP以上の譲歩を迫るのは間違いない」と指摘する(日米新交渉 米、自国生産や雇用増せまる(核心) 東京新聞 18.9.28 朝刊 2面)。これも当然の指摘である。

 

 これ以上、言うことはない?そうではない。今回の合意について報じるマスコミは、「農林水産物市場アクセス」を、すべて「農作物関税」に置き換えている。それが問題なのだ。

例えば、「日本の農作物関税については、TPPで合意した水準以上は下げないとした」(「実質FTA」日本譲歩日米関税交渉入り合意 東京新聞 18.9.28)、「トランプ米大統領の対日貿易赤字削減要求に端を発した日米の通商問題は、26日(日本時間27日未明)のニューヨークでの首脳会談でひとまず決着した。農産物などの関税を含む2国間の「物品貿易協定」(TAG)の交渉入りで譲歩したが、自動車の追加関税は当面、回避に成功し防衛ラインをひとまず堅守した」(首相「これならいける」 車関税回避、交渉の舞台裏 日本経済新聞 18.9.28)、「日本の農林水産品関税引き下げについて、米側は「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の水準が最大限」とする日本側の主張を尊重する意向を示した」(関税交渉へ 車発動回避は当面 物品協定、協議合意 農産物、TPP水準「尊重」 毎日新聞 18.9.28)、「農林水産品の関税について、共同声明では環太平洋連携協定(TPP)で合意した範囲が最大限とする日本の立場に対し、米国は「尊重する」との表現にとどまった(日米、関税交渉へ 実質的なFTA TPP限度 米国尊重 日本農業新聞 18.9.28)。

しかし、「市場アクセス」は「関税引き下げ」と同義ではない。例えばコメのミニマム・アクセス、これも「関税引き下げの代替措置としての市場アクセス改善策である。TPP合意でも、わが国はコメについて、現行の国家貿易制度を維持するとともに、枠外税率(341/kg)を維持し、その上で、既存のWTO枠(77⽞⽶t)の外に、米国に対して5万実t(当初3年維持)→7万実t13⽬以降)、オーストラリアに対して0.6万実t(当初3年維持)→0.84万実t13⽬以降)のSBS方式国別枠を設定している。

米国に対してTPP水準の譲許を認めるということは、米国に対して新たに5→7万トンの国別枠を与えるということにほかならない。日本の米生産・価格への影響は避けがたい(米輸入の動向と展望 TPP最終合意の米への影響  農林金融 2016-4

マスコミ、多くの人がTPP並みの牛肉関税引き下げ(38.5%→9%)による米国産牛肉の輸入増大で国内牛肉農家が大損害を受けると恐れる。しかし、日米物品貿易協定の影響は、TPP以上の譲許がないとしてさえ、日本農業の根幹をなす稲作にも及ぶ恐れがあることを見逃してはならない。