日欧EPA<農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力ニュース2016年129

日欧EPA 農業はTPPと同水準譲歩の年内合意案 反保護主義の足元見透かすEUの恰好の餌食に

 今日の日本農業新聞が「年内「大枠合意」浮上 TPPと同水準 約束も 日欧EPA」と1面トップ記事で伝えている。

 「欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉を巡り、日本政府内で、自由化の水準など一定の方向性を定める「大枠合意」を年内に目指す案が浮上していることが8日、分かった。農産物については、環太平洋連携協定(TPP)と同水準の市場開放を約束させられる恐れがある」という。

 日本とEUEPA交渉に関しては1日の参院TPP特別委員会で安倍首相が「年内に大枠について合意を目指したい」と述べている。しかし、交渉の進捗状況に関しては、今までのところ日本側の農産物輸入関税やEU側の自動車関税をめぐって交渉が難航しているといった漠然とした情報があるだけだ。日・EU両政府側からの詳細な情報提供はほとんどない。

 しかし、今日の日本農業新聞は、「複数の政府・与党関係者」の話として次のように伝えている。

日本とEUが今週から行っている実務者級の交渉会合は難航している。しかし、日本政府内ではTPP脱退を表明したトランプ次期米大統領の翻意を促したり、自由貿易への期待感を維持したりするために日EU交渉の進展をアピールする必要があるとの声が首相官邸を中心に強まっている。そこで、難航分野の詰めは後回しにしても、決着済み部分や大まかな方向性での合意を「大枠合意」や「基本合意」といった形で示す案が浮上しているというのである。

その場合、「農産物の関税撤廃・削減は『TPPと同水準』などの表現で、自由化水準を約束する可能性がある」(政府関係者)。豚肉や乳製品などEU側の関心品目でTPP以上に譲歩する代わりに、関心がない品目の関税削減幅を小さくするなどして、「TPPと同水準」の市場開放を確保するということらしい。

「聖域」は確保したと政府が主張するTPPと同水準の市場開放なら、対EU交渉でも国内に対して同様な説明ができるし、EU側も説得できるということなのだろう。

ところで、EU側のスタンスはどうなのか。ちょうど同じ8日、マルムストロームEU貿易担当委員(EU貿易大臣)がヨーロッパ農業者・農業協同組合の代表者(COPA-COCEGA)を前に、EU貿易政策は農業生産者が新たな市場に輸出し・公正に競争できるようにするとぶちあげた。EU農産物輸出市場は年に1290億ユーロ(156000億円)に達し、ヨーロッパの200万の雇用を支えていると貿易政策を持ち上げた上で、カナダ、ラテンアメリカ、ベトナム、日本などとの進行中の貿易協定交渉に言及した。

Commissioner Malmström outlines "global opportunity" for European farmers,European Commission-trade,16.12.8

European Agriculture: the Global Opportunity,8 December 2016,Cecilia Malmström, Commissioner for Trade,Exchange of views with the COPA-COGECA Praesidia, Brussels

日本との交渉については次のように言う。

 「来るべき数ヵ月、我々の努力は日本とのFTA締結に焦点を当てる。TPPをめぐって起きたこと―というより起きなかったことを言うべきか―は、日本が今やEUとの交渉に改めて大きな関心を持っているということだ。今や交渉は熟しており、妥協を見出す段階に来ている。

農業に関する我々の最優先分野は関税、非関税措置、そして地理的表示だ。日本は米国や他のTPP参加国に農業分野で譲歩した。我々は、日本とのFTATPP以上に野心的なものであると常に言ってきた。農業ではTPP以上の譲歩を期待している。

日本は、既に農産物市場を開く準備ができており、新たな競争に適応するための支援措置さえ整えた。従って、交渉をスピードアップするめにすべてがテーブルに載せられている」

アメリカのTPP離脱が決定的になっても世界の保護主義への流れを食い止めるためにとTPP批准を急ぎ、農業対策までも強行する安倍日本、すっかり足もとを見透かされている。世界に向かって保護主義の防波堤になると大見栄を切った手前、自らその範を示さねばならない。農産物市場も「聖域」だなんて言ってられない。日本はEU貿易政策の恰好の餌食となったのである。

「 瑞穂の国」の命運もここに尽きなんす、である。 関連ニュース

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