農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2015年5月22日

TPA法案が米議会通過 すわTPPも、というのは早合点

 米議会上院が、下院で採決済みの貿易促進権限(TPA)法案(ファスト・トラック法案)を採択した。オバマ大統領がTPAと同等の重要性を与えており、下院では圧倒的多数で否決された貿易調整援助(TAA)法案(貿易自由化の悪影響を受ける労働者の救済法案)も採択された。TAAの下院での再採決も見込まれている。オバマ大統領のTPA法調印はほぼ確実という見方が広がっている。

 Senate clears trade bill in victory for Obama,The Washington Post,15.6.24

 日本のマスコミも「TPP協議で大きなネックとなっていた米議会のTPA問題が決着することで、日米などが目指す7月中のTPP大筋合意実現へ向けた道筋が開ける」(米上院、貿易権限法案を再可決 TPP合意へ道筋 日本経済新聞 15.6.25)と、甘利明経済財政・再生相はこれでTPPの7月合意も見えてきたと歓迎する(TPP「7月合意可能」 米法案の成立見通しで 日本経済新聞 15.6.24)。

 ただし、TPP大筋合意への「道筋が開ける」の意味は、TPPをめぐる本格交渉が漸くスタート台に立ったと解するべきだろう。合意への道筋には、知的財産権の扱いをめぐる対立など、なお多くの難関が控えている。それだけではない。仮に7月中の合意が成ったとしても、合意内容をめぐる米国議会の議論が再燃、最終的に承認されない可能性さえ残る。

 承認されたTPA法案によれば、合意文書は大統領の調印の60日前に公表されねばならず、従って調印は早くても合意の2ヵ月後になる。この調印文書はさらに2ヵ月のパブリックレビュー・コメントに付されねばならず、議会の審議に付されるのはその後である。従って、合意されたTPP文書が米議会の審議にかけられるのは、早くても年末近くになる。このとき既に、1年後の大統領選挙に向けた激闘が始まっている。貿易政策をめぐる議論も一層高揚する。TPP反対の勢いもいや増すに違いない。

 Trade Bill’s Fate Rests on What’s Been Missing in Congress: Trust,The New York Times,15.6.18

 Obama’s big Pacific trade gambit: What comes next,FT.com,15.6.24 or Trance-Pacific Partnership Focus will shift to outstanding issues after fast-track vote,Financial Times,15.6.25,p.2 

 例えば為替操作の取り締まりが不十分など合意内容によっては、また他の貿易関連諸施策 、さらには移民政策等貿易とは直接関係のない政策をめぐる政治的争いによっても、一括承認ではなく一括不承認となる可能性がある。それを防ぐために、米国の交渉に望む態度は一層強硬になるかもしれない。それはまた、合意を一層遅らせることにつながるだろう。TTPへの道筋は見えても、決して大きく開けたわけではない。