農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:201514

EU 圧倒的多数の欧州市民が対米貿易投資協定とISDS条項に反対 パブリックコンサル結果

 欧州委員会が113日、EUと米国の間の間大西洋貿易投資協定(TTIP)に含まれる投資保護と投資家・国家紛争処理(ISDS)に関するEU規模のパブリック・コンサル(テーション)の結果とその分析に関する報告書を発表した。このコンサルは、これら条項についての欧州市民の関心が非常に強いことから、昨年327日から713日まで、TTIPの投資協定交渉を中断して行われたものだ。欧州委員会は市民に対し、投資保護と民間投資家・政府間の投資関連紛争処理へのあり得るアプローチに関して意見を求めた。コンサルにおける中心問題は、EUが提案したTTIPに向けたアプローチが投資家保護とEUの権利と公益ための規制能力の正当なバランスを達成できるかどうかということであった。回答は、この種のコンサルにおいては異例の多さ、15万件にも及んだ。セシリア・マルムストロムEU 貿易担当委員は、その分析結果とそれに対する対応を次のように要約する。 

 「コンサルが明らかにしたのは、ISDS条項に対する巨大な懐疑(huge scepticism)があるということだ。我々は、TTIPにおける投資保護とISDSについて、この分野における何らかの政策勧告を始める前に、EU諸国政府、欧州議会、市民社会とオープンでフランクな討議をする必要がある。・・・EU諸国は過去50年、既に1400もの同様な二国間協定を結んできたが、これら協定の見直しにも取り組む必要がある」。

 回答内容は、大まかに、(1TTIP全般への反対または懸念、(2TTIPにおける投資保護・ISDSへの反対またはそれをめぐる懸念、(3TTIPにおけるEUのアプローチへの詳細なコメントに分かれる。(1)と(2)は、ヨーロッパ中の多くの市民がTTIP全般に、また投資保護とISDSの原則そのものに懸念を抱いていることを明確に示している。(3)においては、規制権限の保護、仲裁機関の設立や機能、国内司法制度とISDSの関係、控訴のメカニズムを通してのISDSの決定の法的正当性の精査などについてコメントや提案が寄せられたという。

 これを受け、欧州委員会は20153月までの期間にEU諸国政府、欧州議会、そしてNGO、ビジネス、労組、消費者・環境団体と協議する多くの会合を持つ。これら協議の後、TTIP交渉に向けた具体的提案を考えるという。

  Report presented today: Consultation on investment protection in EU-US trade talks,European Commission Trade,15.1.13
  http://trade.ec.europa.eu/doclib/press/index.cfm?id=1234

 ISDSは、とりわけヨーロッパでは保健、食品安全、環境にかかわる国の規制権限を脅かすものとして悪名が高い。ただし、途上国をはじめとする多くの国・地域との既存の協定では、今多くの欧州市民が恐れるような投資保護協定を強要してきたのも事実であろう。 TTIPにおいてそれを欠くことになれば、例えば中国との間でも、安心して投資できる協定の確保は難しくなる恐れがある。月並みな言い方だが、欧州委は難しい選択を迫られている。

 ただ、TTP交渉においてアメリカに同調、中国等への投資保護のためにISDSの重要性を強調している日本の政府はどうか。ISDS条項の中身は一切秘密、日本国民には未だに何の相談もない。「民主的に選ばれた独裁政府」には、難しい選択などあり得ないのである。

 関連ニュース 

 Public backlash threatens EU trade deal with the US,FT.com,15.1.13
 http://www.ft.com/intl/cms/s/0/8c17a17e-9b33-11e4-882d-00144feabdc0.html#axzz3P3TOT66p

 参考資料

 Official Government Statements and Actions against Investor-State Dispute Settlement (ISDS),Public Citizen

  EU,EU諸国、米国、オーストラリア等世界各国のISDSに反対する政府公式声明