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豪州検疫制度が貿易紛争の一焦点に、EUがWTO協議を要請

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.2

 オーストラリアの輸入農産物・食品に対する検疫制度が重大な貿易障壁として主要貿易相手国の攻撃の一つの焦点となってきた。

 WTO農業交渉のモダリティーに関する期限内合意に失敗した3月31日、欧州委員会は、農業交渉においてあらゆる農業助成を否定してEUの対極の立場を主張するオーストラリアに、農産物輸入の検疫システムでWTO協議に応じるように要請すると発表した。この協議はWTO紛争処理過程の第一段階であり、もし協議が不調に終われば、EUはオーストラリアの制度の合法性に関する裁定を下すパネルの設置を要求することになる。

 これを発表した「EU、オーストラリアの保護主義的食品輸入制度にWTOで挑戦」と題するプレス・リリースは、まるでWTO農業交渉におけるオーストラリアの激しいEU攻撃への意趣返しであるかのごとくである。貿易担当委員・パスカル・ラミーは、「オーストラリアはこの国への農産物輸入を阻止するのに高度に有効な検疫制度を築いてきた。我々は、農産物自由貿易の唯一の見張り塔であるというオーストラリアの不断の主張にもかかわらず、この制度が[SPS、衛生植物検疫協定に定められた]WTOルールの目に余る侵害であると考える。EUは、農産物市場アクセスについてオーストラリアが説教することを自身に実行させるために、WTOの手続を利用する」と語る。

 リリースは、オーストラリアは農産物の自由貿易を推進する農産物輸出国のケアンズ・グループの主導国であるが、不幸にして自由は輸出者にのみ適用され、オーストラリア市場に完全に安全な製品を輸入することを望む者には適用されないと皮肉っている。

 EUは、島国として多くの動植物病の蔓延を免れているというオーストラリアの特別な地位を濫用して、科学的正当化なしで多年のわたり輸入を阻止する検疫ルールを課すことで、自国市場と生産者を不公正に保護していると言う。その例証として、輸出業者が直面する次のような市場アクセス問題をあげる。

 ●果実と野菜のような広範な農産物の輸入の完全な禁止。

 ●極度に長期で、複雑なリスク評価手続。鶏肉、柑橘、トマトなどのオーストラリア市場へのアクセスの要請は1997/98年以来未決となっているし、生鮮豚肉については1980年以来未解決のままである。

 ●最終的にアクセスが許された場合でも、輸入には極度に制限的な条件が課される。例えば、骨抜き豚肉には、熱処理の苛刻な要求が課されるが、オーストラリアはこれがEU内ではなく、オーストラリアでのみ実行されると主張している。

 EUは、これによる貿易損失を分析するのは難しいが、多少の貿易影響は示すことができるとして、次のような数字を掲げている。EUのオーストラリアへの2002年の生鮮野菜の輸出は8,000トンであったが、同等の規模と豊かさのカナダ市場への輸出はそれより300%多い35,000トンであった。2001年のEUの果実・野菜の総輸出額は33億6,900万ユーロであったが、オーストラリア(+ニュー・ジーランド)向け輸出は1,600万ユーロにすぎなかった。

 オーストラリアの検疫制度は、過去にもWTOでの挑戦を受けている。1998年には、カナダと米国の訴えで、鮭の検疫制度のWTOルール違反が裁定されている。2002年には、タイの後援を受けたフィリピンが、パイナップルとその他の果実・野菜の検疫制度でWTO協議を要請した。フィリピンは、オーストラリアを盟主とするケアンズ・グループの一因であるが、この問題では現在もオーストラリアに強い抗議を続けている(フィリピン:オーストラリアのルールにWTOで抗議の可能性,02.7;フィリピン:農業チーフ、オーストラリア貿易政策を酷評,03.2

 タイ自身も、ドリアンを切り開いて検疫するオーストラリアの制度に悩まされ、解決策を探っている(タイ:X線が紛争を終わらせる,0303)。タイとオーストラリアは、現在、自由貿易協定(FTA)交渉を進めているが、そこでも、果実や肉の輸入に対してオーストラリアが課す衛生基準やアンチ・ダンピング措置などの非関税障壁が重大問題となっている。タイ側は、オーストラリアの提案の大部分が関税に焦点を当てたもので、タイの輸出業者が直面する現在のこれらの障壁の緩和が考慮されていないことが交渉の進展を阻む最大の障害と不満を表明している(Australia urged to ease barriers,Bangkok Post,4.1;Negotiators confident but challenges remain,Bangkok Post,4.2)。

 さらに、米国とオーストラリアもFTAを交渉中であるが、オーストラリアが米国の牛肉・酪農製品・砂糖の高い貿易障壁の除去を最優先するのに対して、米国側はオーストラリアの遺伝子組み換え食品の輸入の許容・外国投資制限の除去とともに、検疫ルールの緩和を優先課題に据えている(Camberra hopeful on trade talks,Financial Times,3.17)。