英国王立協会会長、GM作物実験評価に関する意見―近代農業の将来の議論の触媒に

農業情報研究所

03.11.27

 先月、遺伝子組み換え(GM)作物の3年間にわたる政府農場実験の結果を評価する報告書を出した英国王立協会(ロイヤル・ソサイエティー)の会長・メイ卿が、25日、この農場スケール評価(FSEs)の結果に関する意見を提出した(PDF File)。英国におけるGM作物の営業栽培に関連してGM作物と他の形態の農業との共存・(賠償)責任の問題及びGMOと環境をめぐる諸問題に関する報告書を準備中で、そのための会合を控えた「農業及び環境バイオテクノロジー委員会(AEBC)」の諮問に答えたものである。

 王立協会の報道発表()によると、メイ卿は、「結果はGM産業と反GM運動家の一部メンバーにより偏向した、つまみ食い的な方法で提示されてきた」、「これらの実験の結果から”すべてのGMは悪い”とか、”すべてのGMは良い”とか一般化し、宣言することは単純化のしすぎだが、GMプロパガンダ戦争の両サイドからの声明はこれらの知見に基づく”勝利”を宣言した。これらの結果は、・・・GM作物だけでなく、もっと一般的に農業に関する問題を一層問いかけるように社会を駆り立てるべきものだ。それは近代的農業の将来に関する論争の触媒として利用されねばならない」と語ったという。筆者も、英国:GM作物農場実験評価報告発表(03.10.13)」で、「この報告は除草剤に関する別の問題も提起することに注意する必要がある。環境団体は、報告が除草剤耐性GM作物の禁止につながると喜んでばかりはいられられないはずだ。この報告は、非GM作物栽培の方が生物多様性に有害なケースもあり得ることも、トウモロコシの例で示している。GM作物導入以前から英国が生物多様性を大きく毀損してきたことは、上に示唆されているとおりである。これは農薬使用の増加も含む農業慣行の変化の結果である」と述べておいた。下に、メイ卿のコメントの本体(前文等を除く)部分を紹介する。

   GM作物農場スケール評価の結果へのコメント

 FSEsの結果は、英国におけるGM作物の商品化に関する現在の論争への寄与のためだけでなく、近代農業の環境への影響の科学的理解への寄与のためにも、注目に値する。実験は、GM作物技術が慣行の方法よりも農地の生物多様性に有益であり得る方法で適用できること、あるいは農地の生物多様性に相応の否定的影響を伴う農業の一層の集約化のために利用できることを示した。実験は、雑草管理のための異なる除草体系の比較効率性を示し、またこれらの体系の農地生物多様性の一定の側面への影響に関する前例のないレベルの詳細を提供した。結果は、特殊な農業システムの環境影響を決定するのがGM技術ではなく、使用される除草剤の量やその残留性のような、これと結び付いた雑草管理システムであることを明らかに示した。

 FSEsは重要ではあるが、一連の環境損傷指標を通して示される環境影響を伴う三つの異なるタイプの作物に関する二つの作物管理技術の断片的比較である。しかし、英国の農業システムの将来について引き出される長期的結果については、英国の現在のシステムとその環境影響の一層明確な像を獲得することが必要である。既存の農業方法により引き起こされる環境損傷を測定することによってのみ、代替諸システムの正確な比較が可能になる。このベースラインに対しての比較がすべての農業技術の将来の評価の主眼となることが重要である。そうならなければ、代替諸システムのプラス・マイナスの特徴を誤って提示することになるからである。

 FSEsから生じる最も切迫した問題は、GM作物が慣行農業よりも環境に良いか悪いかではなく、我々が近代農業に何を望むかの問題、害虫抵抗性あるいは雑草との競争に負けない作物の使用と、野生植物・昆虫・野鳥の減少のような慣行農業の農地生物多様性への悪影響の軽減とのバランスをどうとるのかという問題である。英国は、既に生物多様性の顕著な損失を経験してきた。また我々はこの趨勢が止められるべきであるならば、どのようにすればもっともうまくこれが達成できるのかを決定する必要がある。それは、土地を非農業目的に当てるなど、自然との協働を通して、あるいは化学物質の必要性が少ない作物を開発するためにGMのような技術を利用するなど、我々の食料を一層効率的に栽培することによって可能である。私は、1999年、私が英国のチーフ科学アドバイザーであったときに、「GM食品:事実、心配、政策、公衆の信頼」と題するリポートで、また2002年の記念祭での王立協会会長としてのスピーチで、この問題を論じた。私は、GM作物はもし適切に利用されれば、環境の改善のために利用できるが、まず第一に、我々がどんな世界に住むことを望むのかというはるかに大きな問題に答える必要があるという、そのときに行った指摘を繰り返したい。科学や技術に解決策の提供を求める前になされる必要あるのは、農業方法とその影響をめぐる社会的・環境的選択である。

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